夜会
夜会当日。
フェリクス様の用意した青色のドレスで参加することになる。
まさか、初めての夜会がフェンヴィルムになるとは思わなかった。
フェリクス様は、一週間ぶりに魔物狩りから帰還して、そのまま夜会へとの参加になる。本当に忙しい方だ。
でも、どうせならフェン様は置いていってくださって欲しかった。一週間も会えないと淋しかったのだ。
そして、フェリクス様からのドレスに照れながらも夜会へと向かっていた。
「ダンスは大丈夫ですか? フィリ―ネ様」
「ずっと練習していたし、頑張るわ。ジルも夜会で好きに楽しんでくださいね」
「そうします。フィリ―ネ様は、陛下の側にいると報告を受けましたから……私は近づくなということらしいですわ」
会場に向かいながらドレスアップしたジルがツンとして言う。でも、最近はフェリクス様の不況を買わないようにか少しだけ態度が緩和した気もする。でも、嫌われているままだということもわかる。
夜会につくと、すぐにジルと引き離されて、フェリクス様のもとへと連れられて行った。
彼は私を待っていてくれたようで、「おいで」と言って、手を出してくれた。
その手をそっと取ると、フェリクス様が私を引き寄せた。
「よく似合う」
「あ、ありがとうございます」
照れながらもフェリクス様を見てお礼を言うと、取られた手に初めて会った時のように手にフェリクス様の唇が触れた。緊張する。動悸もしてきた。
そして、陛下とのダンスは一番最初にすることになるが、ここでも緊張しかない。
ディティーリアでは、離宮の軟禁生活でダンスの練習などなんのためにするのだろうと疑問しかなかったけど……まさか、ここで役に立つとは思わなかった。
フェリクス様に手を取られたままで、会場の中央に出る。音楽は落ち着いた曲が流れていた。
(大丈夫……ここに来てからも練習したし……)
「リーネ」
真っ直ぐに前を向いていると、フェリクス様が私の名前を呼び、彼を見上げた。
そして、ダンスが始まる。
人とダンスなどしたことない私は、不安から足に視線を落としてしまっていた。
(リーネ。顔を下げるな)
(次は右だ。足を……そう……)
心の声が通じているせいか、フェリクス様が私の頭に直接話しかけてくる。少しでも私の足が遅れないように、優しくてそれでいて力強い声が響いている。それが不安な気持ちを和らげた。
顔を上げると、上手くリードしてくれるフェリクス様と目が合い、彼の助けを借りながら足を合わせていた。
(……上手くできていた)
(フェリクス様のおかげです。ありがとうございます)
(言うだけでダンスはできるものではない。リーネがずっと練習をしていたからだ。謙遜することはない)
中央から下がりながら、フェリクス様との会話を頭の中でする。そのせいか、お互いに見つめあいながら陛下の席へと戻った。
「フィリーネ様。お上手です」
フェリクス様の席に戻り彼の傍らに立っていると、ヴァルト様が私を誉めてくれている。
その場に、もう一人男性がやって来た。
「フィリーネ王女。私とも一曲いただけますかな?」
私を誘ってきた人はフェリクス様よりも少し年上の方だ。薄い水色の長い髪を一つに束ねている。この方が歩くと周りが一線を引くように道を開けていた。
(でも、先ほどのはフェリクス様のおかげで上手くいったのに、この方の手をとっていいのかしら?)
悩みながら、胸元で両手を自分自身で絡めると、その手をフェリクス様が掴んだ。
「兄上。本日はリーネの披露目です。お誘いは遠慮願います」
「私ともダメなのか?」
「リーネは、俺の側にいて欲しいのですよ」
フェリクス様が私を背中に隠すようにしている。
二人の間に挟まれて、困惑する。でも、フェリクス様の心の声は(行く必要はない)と呼びかけていた。
フェリクス様の兄上は、確かアイザック様だった。本当ならばアイザック様が第一殿下だったから、彼が陛下になる予定だったはず。でも、この国ではフェンリル様の幻獣士になれば、その方が第一殿下でなくとも陛下になるという。
王妃教育で、この国のことをいろいろ教えてもらった時にそう習った。
アイザック様は「では仕方ない」と、はにかみながら諦めて去ってしまった。
(幻獣士に、なにかあるのでしょうか? フェン様はこの国を守っているらしいですし……)
アイザック様が去ってくれて、ダンスをしないで済みホッとすると、また頭の中にフェリクス様が話しかけてきた。
(しばらくしたら一緒に下がろう)と……。




