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過去編①:浅影透夜

読んでくださりありがとうございます。

色々と試行錯誤して今までの書き方とはちょっと変えてみました。

 中学二年、夏。

 待ちに待った夏休みがついにやってきた。

 学校でも勉強して、家に帰ってきてからも親に勉強をさせられる日々から解放されると思うと、自然とほほが緩んでしまう。

 親が家に居たら遊べないのは変わらないけど平日の昼間は滅多にいないし、楽しめるときに楽しもう。今はそう思うしかない。


 それにしても暑い。家を出てまだ数分。

 うざったい汗を拭いながら田舎道を歩いている。

 元気すぎる太陽と一面の青空。周囲は田んぼと山くらいしかないけど、こういうときに季節を感じるから田舎に住んでてよかったなと思う。蝉がうるさいけど。


 それにしても晴れてよかった。雨の予報だとは思えないほどの快晴だ。

 これなら幸太と心配なく遊ぶことができる。

 集合場所は少し山を入った先にある川辺。

 なにも持ってこずに来てしまったけど、川に入るか幸太が釣竿でも持ってきてくれるだろうから大丈夫か。

 去年の夏休みはそうやって遊んだなとか考えていると、自然と歩くスピードが速くなる。


 集合時間は10時。まだ時間に余裕がある。家を出たのは9時30分ぐらいだし。

 とりあえずなにか飲み物でも買いに行くか。

 のどが渇いたし、まだ歩くことを考えると水分を補給したい。

 少し進んだ先に自販機があるはずだ。隣には屋根付きのベンチが置いてあるし、バス停もある。学校とは逆方面だから普段は使わないけれど。

 

 10分くらい歩いただろうか。じりじりと照り付ける日差しが肌を焼き付ける。のどの渇きも限界に近く、汗が止まらない。

 そろそろ休憩をしたいなと思っていたら、やっと自販機が見えてきた。 

 やっと休憩できる……。

 早くあの横のベンチで休もう。

 

 「あれ?」

 ついに休憩地点についたというのにすでにベンチに誰か座っているじゃないか。

 最初はここら辺に住んでいる年寄りかなと思ったけど、一瞬で違うと分かった。

 なぜなら制服を着ているからだ。

 高校生か? 中学の制服ではないのは確かだし、俺より年上っぽい。

 そして、なにより女子高生だ。

 せっかくあのベンチで休もうと思ったのに二人っきりで座るのはさすがに気まずいな……。

 とりあえず、自販機で飲み物を買うか。

 ベンチに座っている女子高生の前を通って、横にある自販機の前に立とうとした瞬間だった。


「あ、そこ気を付けてくださいね」

「うわっ!」

 女子高生がなにか言ったと同時に、足元を見るとひっくり返った蝉が鎮座していた。

 思わず後ろに跳ね上がる。

 ビックリした……。危うく踏んでしまうとこだった。

 くすくすと笑う声がして彼女の方を見ると、口に手を添えて微笑んでいる。

「ごめんなさい。驚き方がちょっと面白くて」

 まだ目尻をくしゃっとさせて笑っている。


 澄んだ瞳に薄い唇。肩辺りまであるふんわりとした髪。触れてしまったら折れてしまいそうなほどの華奢な線。アイドルとかそういう俗っぽい可愛さとはまた違う清楚な雰囲気だ。

 段々と自分の鼓動が早くなっている。


「……いや全然大丈夫です」

「私も飲み物買いたかったんですけど、そこに蝉がいて買えなかったんです」

 そう言って彼女はまた薄っすらと微笑む。

「俺、どかしましょうか?」

 言ってから気づいたけど、彼女の分も一緒に買うのを提案すればよかった。蝉を避ければ自販機は使えるし、生きているか死んでいるか分からない蝉をどかすのは割とビビるんだよなぁ。

「じゃあ、お願いしてもいいですか?」

 お願いされてしまったらこれはもう蝉を触る選択肢以外ない。

 どうしよう。触ること自体は躊躇はないのだけれど、もし生きていたら彼女を驚かせてしまうしな……。

 悩んだ挙句、俺は靴のつま先で少しだけ小突いてみることにした。

 

 ……動かない。死んでいる。それもそっか。こんなに暑いしな。

「死んじゃってますね……大丈夫なんでもう買えますよ」

「ありがとうございます」

 彼女は立ち上がるとなにを買うかあらかじめ決めていたみたいで、すらっとした白い指で自販機のボタンを押す。

「さっきのお礼ってことで、なにが飲みたいのありますか?」

 続けて彼女はお金を入れるとこっちを見て聞いてくる。

「あ、お茶が飲みたいです……」

 多少の申し訳なさがあるけど、すでにお金を入れてしまっているしな……。ここは素直に善意を受け取ろう。

「はーい」

 俺はお茶を受け取ると、そのままベンチに座ることにした。話すきっかけもできたし、気まずさはあまりない。相手はなぜか敬語だけど。

「お茶を選ぶなんて渋いですね」

 そう言って彼女もベンチに腰を下ろす。

 年下だと分かっての発言だろうけど、全然嫌味に聞こえないから純粋にそう思ったのだろう。

「あまり甘いの得意じゃないんですよ」

「なるほど……私なんて甘いの好きだからいつもこれ飲んじゃいます」

 彼女の方を見るといちごみるくを両手で持っていた。

「今度、機会があったら俺も飲んでみますね」

「なんかそれ結局飲まなそうな言い回しですね……」

 ちょっと残念そうな彼女を横目にペットボトルの蓋を開ける。

 もう喉が渇いて限界だ。

「いただきます」

「どうぞ~」

 

 美味しい。冷たい緑茶が限界まで渇いた喉を染み渡っていく。

 隣に座っている彼女もコクコクとイチゴミルクを飲んでいる。余計に喉が渇きそうだけど。

 なんか緊張するな。年上の女子と二人きりでベンチに座っているけど、何を話せばいいんだろ。こういうときに幸太はきっとコミュ力を発揮して、自然に会話を盛り上げるのだろうけど。

「……蝉、死んじゃってましたね。一週間しか生きれないのに……」

 彼女から話題を振ってくれたのはありがたいけど、なんか暗いな……。

「まぁ蝉にとっては一週間が一生だし、そもそも一週間っていう時間感覚がないんじゃないですか?」

 うん。我ながら意味不明な返答をしてしまった。

「それもそうですね」

 言葉を噛み締めるように肯定が返ってきたけど、なんか気まずいな。


 あれ?なぜだろう。どっかで今のこの光景を見たときがあるような気がする。

 唐突にそう思ったけど、これがデジャヴってやつか? 夢でも同じような光景を見たような気もするんだよな……。

 最近こういうことが増えてきた気もするけど、きっと気のせいだろう。デジャヴは脳の勘違いで過去に似たような経験をすると起こるって幸太が話していたしな。


「どうしました?」

「いや、なんでもないです……。 ちょっと考え事をしてただけです……」

「私と同じだね。さっきまで私もここで考え事してた」

 はにかむ彼女は、そう言って俯く。

 彼女もなにか抱えるものがあるのかもしれない。色々と話しの話題を見つけるために聞こうと思ったけど、無理に話す必要もないか。しばらくはこの蝉時雨に間を持たせてもらろう。

 まだ時間はあるし、ゆっくりしていこう。

 それにしても汗が止まらない。頭がフラフラするし、思考が段々と回らなくなってきた。

 ――あれ? もしかしたらこれやばいんじゃないのか?

 急にふと全身の力が抜けていく。

 身体が横に倒れていく感覚を最後に俺の視界は暗くなり、意識が消えていった。

読んでくださりありがとうございます。

感想、評価をしてくださるととても嬉しいです。参考にしてこれからも創作に努めていきたいと思います。

次回もよろしくお願いします

Twitterはこちら→https://twitter.com/Aoto_s__

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