http:寿命買わせていただきます 9《内部告発②》
部屋に入る圭一
薄暗い部屋にベッドとデスクが設置してある。
テレビもなく、時計さえもない部屋だが汚いわけでも、臭いがあるわけでもない。
頭を抱えベッドに座る
「これからどうすればいいんだ」
===
モルテはしばらくは圭一の人生ページを見ていたが、途中で別の男性のページに飛んだ。
その男性は先月自殺している。
「なんか気になるな」
「どうしたの?」
「お前に頼みたい事がある」
「なに?」
「この男を探してここに連れてきて欲しい」
「良いけど、なぜ自分でしないの?」
「この男は今のお前を同じ状況、私が何かをすることは出来ない。
死んでから26日目、同じ空間をさまよっている。
お前みたいに自分から私に近づいてくれたなら話は聞けるけれどな」
「それは私にしかできないって事?」
「まぁ、そんなとこ」
「わかった、モルテの手助けをする、私の寿命が無くてモルテには悪かったと思ってるし」
「じゃあ、頼んだ」
「了解」
あんなが探しに行く男性は都築正人享年32歳
26日前に自殺した圭一の部下だ。
あんなは正人がさまよっているだろう場所を探していた。
自殺した場所、そして自宅にも故郷にもいなかった。
「どこ行っちゃったのよ?、どっか観光でもしてるの?」
探しまわって疲れたあんなは高層ビルの上で夕日を見つめていた。
「あっ、あの人?」
ビルから出てくるたくさんの人の中で、一人だけ逆方向を向き、立ち止まってビルを見つめているスーツ姿の男性
通り過ぎる仕事終わりのサラリーマンは立ち尽くす男性を気にもしないどころか、男性の身体をすり抜け通り過ぎて行く。
「あなた、都築正人?」
静かに男性の前に降り立つあんな
「えっ、なに?、だれ?、君も幽霊?」
「別に私もあなたも幽霊ではないよ、一緒に来てくれない?」
「どこに?」
「モルテが、あっ死神が会いたがってる」
「死んでる俺に死神が会ってどうする?」
「圭一の事で」
「菅原さんの?、死神って菅原さんも死んだのか?」
「生きてるよ、まだ」
「まだ?、わかった一緒に行く案内してくれ」
===
「連れて来たよ」
部屋をキョロキョロ見る正人
「座って」
モルテは正人の話を聞いた。
実際に改ざんしたのは別の人間だったが、正人はそれに気が付いた
秘密裏に調べていたけれど、自分だけではどうしようなくなり信頼する圭一に話した。
圭一は話を聞き終わると、自分はこの話を聞かなかった事にするとその場を離れ、それ以降、正人とも極力接点を持たないようにしていた。
「菅原さんを信頼していたんです。
あの人も間違ったことは嫌いだからそのままにしては置けないだろうって、でも、スルーした。
今になって考えると正解は菅原さんで、俺は間違っていたと思っている。
俺はその後もいろいろ調べてデータを集めたけど、怪しまれて、パワハラって言うんですか?、だんだん追い詰められて、よくわからなくなって気が付いたら命を絶ってしまっていた。
自殺して死んでるのに気が付いたらも言うのも変ですけど。
衝動的ってそんな感じなんですね。
死んだら、なにも感じない何も思わない、後悔も忘れるって思っていたけどそんなことない」
「49日経ったら忘れる」
「あんなに頑張ったのになんにも出来ませんでした。
なんにもです・・・。
何のために俺は調べていたんだろう。
調べたことも無駄、死んだことも無駄です」
「菅原圭一が私に寿命を売りたいと言ってきました」
「えっ?」
「内部告発した後、裁判費用にするそうだ」
「なぜ?、それでも死ぬ必要は無いでしょう」
「あなたの自殺に責任感じている。
ただの告発ではうやむやになったり、大きな力でなかったことにされてしまうから、自分が死んで注目をあびて、世論に訴えるつもりのようだ」
「それをあなたは受けたのですか?」
「そうするつもりだ」
「やめて下さい、菅原さんまで巻き込むつもりはなかったんです。
俺の安易な行動でそんなことになるなんて、やめさせてください。
もういいんです、世の中なんてそんなもんだってわかりました。
学校だけじゃなくて、社会にも目には見えないカースト制度がある。
上位の人間は間違ったことをしても、それをなかったことに出来る力があるんです。
下位の自分がそれを崩すどころか、揺るがすことさえできなくて、それをしようとあがいても無駄だってわかりましたから。
砂の城みたいに下が崩されたからって全部崩れるわけじゃない。
すぐに崩れたところは別の何かで補修されてしまう」
「だからって、砂の城にコンクリートの基礎のような頑丈な土台があるわけじゃないですよ。
まぁ、聞きたかった事は聞けました。
あとは私と菅原圭一との契約の問題なので。
あんな、お帰り頂いて」
「だってさ、下まで送るよ。あれ、下なのか? 大丈夫よ心配しないで。
この死神さんは天使だから」
あんなは正人の腕をつかみ立ち上がらせた。
===
モルテが圭一のタブレットに映し出される
「菅原さん、私に秘密にしてましたね、都築正人の事」
「彼は殺された」
「間違いなく自死です。
死神である私がそれに関しては保証します。
ただ、彼の死は自死であっても自他殺としたくなるのが本音ですが」
「殺されたわけじゃないんだ・・・、でも、私が彼の話を自分の身が大切で聞かなかったことにしたから」
「それだけじゃないんでしょうけど、気持ちは変わりませんか?」
「はい」
「わかりました、では、こちらにサインを」
映し出された契約書に触れる圭一
数日後、速報として改ざんの証拠資料がマスコミ、検察、警察、そして政治評論家、そして当事者であるだろう政治家宛に一斉に送られた。
その資料がどこの誰から、そしてどこから送られてきたのか?、ネットに精通しているどんな人間でもモルテに行きつくことは出来なかった。
テレビも指揮をとっていた政治家を断罪し、完璧に揃っている証拠で逃げ道は無かった。
ホテルの部屋で速報をタブレットで見ている圭一。
「死神の仕業か・・・私のやろうとしていたことをやってくれたのか。
その手数料も支払われる寿命の代金から引かれるのか?やり手だな。
ここに迎えに来るのかな」
その時、部屋の電話が鳴りフロントからでチェックアウトの時間だから出て行くように言われた。
「死に場所はここではないんだ・・・」
圭一はホテルのフロントにいた。
「宿泊料は?」
「モルテから頂戴してます、7日分の寿命は頂戴したとの伝言が」
「7日分の寿命?、死神の契約書にサインしたけど・・・」
「これですか?」
圭一のサインのある紙を持ち上げる
「宿泊代の支払い契約書、日数分の寿命で支払うと書いてあります」
「はぁ?」
圭一は外に出て身体をいっぱいに伸ばした。
「私の寿命を買わなかったんだ・・・死神は。
なら数日でも多く生きていたいから、現金で支払ったのに。
さぁ、これから当事者としてのきっつい取り調べの日々が続くのか」
振り返るとホテルは消えていた。
この死神ホテルについては、またいつかお話しできる時に。
「ありがとう、死神」
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「また助けちゃったね」
ニヤニヤしながらあんながモルテの肩に触る。
「うるさい、殺さない事にお礼を言われる死神になり果てた私をしばらくひとりにしてくれ」
続く