http:寿命買わせていただきます 7《殺人未遂前者》
誰かにとって良いことは、他の誰にとっても良い事とは限らない。
そんなことは分かっている。
でも、自分にとって良いことをしていても、どこかで誰かが傷ついていることに気が付いていないことは多々あるのかもしれない。
感染症が流行っている時、従業員の雇用を守るために営業する、店の売り上げ協力の為に外食する、経済を回すために旅行に行く、何かを救うためになにかをする善悪は人によって違う。
でも、それが災いを広げてしまう事もあるし、誰かを救うことになっているのかもしれない。
さて、善悪の基準とはなんなんだろうか?
モルテは今日も与えられたお迎えの仕事の合間にサイトを見ていた。
「マジに寿命買ってくれるのか?、売りたいんだけど、
あと何を書くんだ?、買ってもらいたい理由か・・・
冴木真伊玖24歳
俺が人を殺す前に俺の寿命を買って欲しい」
「本日の24時、サイトにリンクされているライブチャットルーム99に入室してください。
入室キーは@death」
あれから2日、あんなの姿は見ていない
「さすがにもう来ないか・・・」
ワルキューレPCに真伊玖の認証番号を打ち込む
真伊玖は冴木裕一郎と真奈美の間に誕生している。
裕一郎は町議、真奈美は教師
「はぁ・・こいつ正真正銘のクズだ」
24時
「管理人いる?」
「死神のモルテだ」
「ふ~ん、死神って本当にいるんだ、っで、俺の寿命買ってくれるの?」
「買う、契約書にサインをしろ、画面の名前の部分に触れるだけで良い」
「おおっ、ずいぶん簡単だな」
「生きている事に必要な資格なんてないと思っているが、おまえは違う」
「ちょっと、それは言いすぎじゃないっすか?、やっぱやめよう、サインはしませーん」
「お前が自らサインをしようがしまいが私の気持ちは変わらない。
その寿命の代金は動物愛護団体に寄付しといてやる」
「それは俺を殺すってことか?」
「私は死神、冥界の扉を開いてやるよ。
この世の人間のすべてを私はわかっているわけではないし、お前みたいなクズは他にもいっぱいいるのかもしれない。
ただ、お前はこのサイトを利用することで、私に出会ってしまったそれがお前の運命だよ。
虫を殺し、小動物を殺し、猫、犬とお前は動物を楽しみながら殺してきた。それはだんだんエスカレートしてきている」
「だから?、動物殺したって器物破損だろ?俺の命と引き換えに出来るような罪じゃない」
「でも、それではつまらなくて人を殺したくなった。
手始めにこのサイトを見て管理人である私に死を希望する人がいるのか確かめて、自分でサイトでも開設しようと思っているという感じか。
自殺志願者を集めるようなサイトを、そこに来た人間を自らの手で殺すために」
「だから?お前だってそうだろ?、金を支払い命を奪う、それで商売繁盛なら、自殺したい人の希望を叶えるのだって同じじゃないのか?死にたい奴と殺したい奴でWINWINだ」
「WINWIN か、前に同じこと言ったやつがいたな・・・そうだな、同じなのかもしれないな。
私はただ気に入らないって理由でお前の命を奪おうとしているんだから。
さっさとサインしろ」
「いやだって言っているだろう」
「なにするんだやめろ?」
「おとなしくしろ」
背後にモルテが立っている。
「はぁ?、いつのまに」
「死神なんでね」
PC上の契約書の名前に向かって真伊玖の手をつかみモルテが誘導する
「やめてくれよ!、もう犬も殺さないから!」
「お前の寿命は残り約29万時間、約700万だな、クズのくせに時給が平均超えていたからな」
「やめろ!、離せ!、あ~」
契約書に触れると画面から消えた
「お前にはもう一枚書いてもらうものがあるんだ。寄付依頼書、私が間違いなく寄付するから安心しろ」
「だったら、親に残せよ!」
「親にとってお前がいなくなることが私への最大の感謝だ。
まあ、それは私にしか理解できない事だけどな。
お前の未来が無くなれば経験しない不幸だから」
「お前には未来が見えるのか?」
「私が知り得るのはお前の死因だけだよ」
「じゃあ、なぜ俺が不幸な存在になるってわかるんだ!」
「わかるんだよ、死因でな。お前の死因は死刑だ、罪状、第一級殺人、被害者5人」
「でも、そうだとしても、まだ、事件は起こしてないのに・・・、誰も殺してないのに、それがお前の正義か?」
「正義?、私は死神だ」
声と同時にモルテは鎌を振り下ろした。
モルテは1人の寿命を回収した。
そして、殺されるはずの5人の命を救った。
真伊玖の死因は心筋梗塞、親は彼の死を悲しみ、殺人者ではなく葬儀をする事ができた。
もちろん、彼の経歴には殺人者と言う犯罪歴は残らない。
さて、善悪の基準とはなんなんだろうか?
誰かにとって良いことは、誰にとっても良いことではない。
そんなことは分かっている。
でも、それが災いを広げてしまう事もあるし、誰かを救うことになっているのかもしれない。
つづく