http:寿命買わせていただきます 4《地下アイドル①》
本来の仕事である寿命全う者のお迎え仕事は期限いっぱいで何とかこなし、減点にはなっていない。
同じように迎えに行っても
「やっと来てくれたか、ご苦労様」
と笑顔で待っていてくれる人
「遅いよ」
と怒りながら死を迎える人
「もう?」
と泣きながらいやだと騒ぐ人
それは年齢や性別、死因では整理のつかない事だった。
子供でも静かに待っている子もいれば、100歳過ぎても大騒ぎする人間もいる。
「人間だった時の記憶は無いけど、私は迎えに来た死神にどんな対応したのか?」
最近、HPには依頼が多くなっている。
「殺してほしい」
「自殺の手助けをしてほしい」
「自殺したいと考える奴は何度も繰り返す、だから俺が手を下すこともなく死を選び、ほとんどの寿命は残っていないやつが多いからポイントは低い、寿命をお金に換えたい人間は生きたいけれど大切な誰かの為に死ぬことを選ぼうとするから本来の寿命が長くポイントが高い人が多い」
今日もメールが届いた
「私はアイドルをやってますが辛くて死にたいんです。
寿命を買ってください。いいえ、お金なんていらない、死にたいんです!
「ん?可愛い・・・」
ポップアップしたプロフィールの写真に反応するモルテ
増えてきていた自殺願望者の依頼にうんざりしていたがモルテは珍しく返信をした。
「自殺に手を貸すサイトではありません。
私は死神であって殺人鬼じゃない。
お金を必要としない自殺志願者は別のサイトを探してくれ」
数秒後に返信が来る
「どうして?寿命を買うんでも、貰うのでも一緒でしょ?
お金もかからず、貰えたならラッキーじゃん」
「はぁ?一緒じゃないし。それに貰うんじゃなくて奪うんだよ。死にたきゃ勝手に死ね」
「どうやって死ねばいいのかわからないから助けを求めてるのにケチ」
「ケチ?って、いい加減にしてくれ、俺は忙しいんだ」
「すぐに返信してくるじゃない、どこが忙しいのよ。このインチキ死神」
「インチキだって、今すぐチャットルーム99に入れ!、
入室キーは@death」
「もしかしたら、私はあの子に挑発されてしまったのか?・・・・」
「ねぇ、本当に死神?」
「だと思いますけど」
「魔法見せて」
「なんか勘違いしてませんか?死神は魔法使いじゃない」
「なら、それらしいもの見せて、ほら死神が持ってる振り下ろす大きな武器みたいなやつとか」
「これか?」
モルテは鎌を持って見せながら、自分の行動に呆れている
「この子のペースに巻き込まれている気がする」
「本物なんだ。じゃあ、さっさと私を殺して!サクッとね」
「理由は?」
「死にたいから」
「死にたくなる理由だよ」
正木あんな 19歳 地下アイドル
「疲れちゃったのよ・・・なんか自分がモグラみたいに思えてきて。
地上に上がりたいけど上がれないし、音楽番組に出るようなアイドルになりたいのに」
「っで、叶わないから死にたいと?」
「そう、悪い?」
「いや、悪くない。死にたい理由なんて他人に理解できるものばかりではないからな。
でも、アイドルになるのが夢じゃなかったのか?、まだ19歳で夢をあきらめる?」
「さすが死神、言わなくても年齢もわかっちゃうのね、アイドルにもアイドルとしての寿命や旬があるから、19歳は旬は過ぎてる」
「そんなことは無いだろう、20歳過ぎてもドラマとかテレビで活躍しているアイドルはいる」
「へぇ、アイドルとか知ってるんだ?死神ってテレビも見るんだね。
活躍しているアイドルは旬の時期に咲きほこれた人たちがほとんどだから。
旬に咲いた花は散っても花だけど、旬に咲けなかった蕾は蕾のまま落ちるって感じかな」
「なかなか厳しい世界だな」
「そう思うでしょ。じゃあ、さっさと殺して。お金はねぇ、寄付するからとりあえずもらっておく」
「とても死にたがっている人間のテンションじゃないね」
「死神の勝手な決めつけ。自殺を考える人が必ずしもどよーんってオーラをまとっているわけじゃないし、ねぇ、ところで死神の仕事って何?」
「寿命が来た人のお迎え」
「あと命をお金に換えるんでしょ?」
「それは副業」
「死神がお金を支払うのに副業っって?」
「俺が欲しいのは命のポイントだからな」
「そのポイントがいっぱい貯まると良いことあるの?」
「成績が上がって、役職がついて、待遇がよくなる」
「なんだ、こっちの世界と変わらないじゃない。死神も大変そうね」
「御心配には及びません」
「ところで私はいくらもらえるの?」
モルテはワルキューレPCを見る
寿命・・・残り34時間
「えっ?」
死因 事故死
「あ・・・」
お迎え予定の一覧を手に取る。
赤字で正木あんなの名前が書いてあった。
「なになに?それに何書いてあるの?」
「いや、・・・おまえの寿命を買うことはしない」
「そっか、まぁ良いわ、いやになったら自殺しちゃうかもしれないから買っといた方が成績上がるのに持ったいないよ。
まぁ、なんかあなたと話してたらもう少し頑張ろうって気になってきたし、それが1日、1日と重なって行けばきっと生きてるよね」
「それは良かった」
「あなた、死神じゃなくて天使ね、ここは死を回避させてくれる天使のサイトだ」
「なんとでも言え」
「ありがとう、楽しかった」
「ああ、頑張って・・・」
チャットルームの自主的に出たのはあんなだった。
34時間後
病院のベッドに寝ているあんなの前にモルテは立っていた。
鎌を振り下ろすと同時にモルテを睨むあんなの姿
「なんでよ、私の寿命買わなかったんだよね?、なのになぜ、私死んでるのよ・・」
「あの時点で君の寿命は残り34時間だった」
「教えてくれたら良かったのに・・・事故を回避できたかもしれないし、できなくても34時間でやりたいことは出来たはず」
「申し訳ない・・・ルールで」
「死神ってルールに従うんだ。やっぱ、こっちの世界と同じで息が詰まるわっで、私が私でいられるのはどれくらい?」
「49日、その間は好きな場所なところに行って会いたい人に会うことは出来る、一方通行だがな」
「会うんじゃなくて、見るって言うのよ、そういうのは・・・
そっかぁ、私には残された寿命が無くてポイントにならなかったから買わなかったのね」
「そういうわけでもないんだけど・・・」
フードの下に潜り込んで顔を覗き込む
「割とタイプ」
「はぁ?、お前、おかしなやつだな」
「あんなよ、まぁ、これが最後かもしれないけど、ありがとう。こんな形で死ぬとは思わなかったけれど、あなたに会えて本当に良かった、あなたは頑張って成績上げて立派な死神になってね」
「ああ・・・もちろんだ」
モルテは次のリストの人間をお迎えに行くためにその場を去った。
その夜、モルテはHPを開かなかった。
誰の依頼も受けるつもりもなかったけれど、なんとなく見る気にはならなかったから。
その後も3日間HPを開かずに、与えられた仕事だけをこなす日々を過ごしていた。
久しぶりにHPのメールを開く
「ふーん、そうなってるのね?」
声に振り返るモルテの背後に立っていたのはあんなだった
「おまえ!」
「あんなよ。
残り45日くらいあるけど、別に会いたい人いないし、せっかくだからあなたに会いたくなって願ったらここに来れたの」
続く