http:寿命買わせていただきます 31《頑張る人と頑張れない人③》
「君は強いな」
モルテの珍しく穏やかな声にスマホの前で真は何度もうなずき、紗菜は何度も大きく首を振った。
「強くなんかないよ。
癌になんてなりたくなかったし、長生きだってしたい。
結婚もしたいし、母親にだってなりたいよ。
遺伝性?母親を“あんたのせいで私は死ぬんだ!”って何度も責めた。
治療に疲れて死んだほうがましって思うことも、剃刀を手首にあてたこともある。
だって、23歳で死んじゃうんだよ。
神様なんていないのに、死神はいるんだって、あなたにつながった時に思った。
もしかしたら、私の命のゴールが見えたからあなたに会えるの?とかって思ったし。
余命宣告されたという人のブログやYouTubeみて、なんで笑えるの?
どうして普通にしてられるの?と、ずっと不思議に思ってたよ。
時間薬?笑わせんな!、時間と共に悪化する人もいるんだとか。
何を言われても噛みつくことしかできなかった。
でも、その人たちもずっと笑っていられたわけじゃない。
あがいて、もがいて、あらがって、戦って・・・勇者になった。
勇者ってあきらめない人のことだって誰か有名な人が言ってたって。
もう人生のゴールが見えてしまっても、何もできなくて諦めているように見えても、間違いなく残された時間と戦っていて、みんな最後まで勇者なんだって思ってる」
※「私は勇者じゃないね…いろんなことすぐに諦めてばっかりだ・・・ごめん紗菜さん」
「私はあなたから教えてもらった日数をなにも諦めないで大切に過ごす。
最後まで勇者でいるって決めたの。
病がわかって、この世界から消える日がわかってしまっても諦めない。
出来ないことは出来ない事、今から医者になりたいって思っても無理でそういうんじゃなくて、
私は私でいる事を諦めない。
時間薬で病気は良くならなかったけど、気持ちは少し前向きになれたのかな。
もちろん、病気にならない健康な身体が良かったけどね。
仕方ないじゃん、これが私なんだから。
まだ、何十回も何百回も泣くとは思うし、強がりなのかもしれないけど、今の私が私でいるためには強くなるより、強がっている方が楽だから」
「君の希望には答えた。
残された日々を大切に生きろ」
「はい、教えてくれてありがとう。
あなたに売るほど寿命無くてごめんね。
その日が来たらあなたが迎えに来て。
あなたが・・・モルテが良い」
「そうだな、君の為に予定に入れておくとする・・・」
紗菜とつながっていた回線を切った。
「迎えに行きたくないね」
あんながモルテの肩に手を置く。
モルテはディスプレイに向かった。
「高木真、お前の寿命を買おう」
「売るのやめる」
「勝手だな」
「ごめんなさい。でも、やめる」
「どうしてだ?頑張りすぎて生きることに疲れたんだろう?」
「私、頑張っていたかな?」
「私にはわからない。
頑張れる限界には個人差がある。
自分が頑張ったと思うのなら頑張っていたのかしれないし、頑張ったと思いたいのか?、頑張っていたと思われたいのか?は他人にはわからない」
「頑張ってなかった。逃げたかっただけ。
嫌なことから解放されて楽になりたかった。
でも、楽になる事は諦める事じゃ無いのかもしれないって思った」
「ほぉ、で?」
「呼び出しておいて申し訳ありませんでした。
私はあなたに寿命は売りません。
もう少し、ううん、ちゃんと自分を見つめ直して、それから頑張ってみようと思う」
「契約前だから何の問題もない。
お前は彼女の言うような勇者になりたいのか?」
「勇者にはなれないかもしれない。
そんなに強くないし、でも、いつかあなたにまた会う日があったら、その時はあなたに“おまえ“じゃなくて“君“って言われるように頑張ってみるよ」
「そうか、期待しないで待っている」
モルテは真との接続も切った。
モルテには真が81歳まで生きることは知っているけれど、彼女のそれまでの間どう生きるかはわからない。
でも、きっと、昨日までとは違う未来が待っているような気がしていた。
続く




