http:寿命買わせていただきます 30《頑張る人と頑張れない人②》
モルテのワルキューレの画面には前原紗菜の顔が前面に大きく、右上に小さく高木真の顔が映し出されている。
真のスマホ画面はモルテと同じで紗菜の顔が映し出されている。
そして、紗菜の画面にはモルテの顔と自分の顔が映し出されていて、真が聞いている事は気が付いてはいない。
「話を受けてくれてありがとうございます。
前原紗菜です」
「モルテだ。まだ、受けると決めたわけでは無い」
真は自分の声が相手には聞こえてはいないからと、ブツブツと呟く。
※「モルテって名前なんだ、私の時には言わなかったのに。
私が名前を名乗らなかったからか?」
「私の寿命を教えていただけるんですか?」
「そうだな、話を聞かせてもらってから決める」
「自分の命が長くないのはわかっています。
主治医からの余命宣告は3ヶ月です」
「じゃあそんなもんなんだろうな、医師のそれを疑っての私を呼び出しか?
医師の診断は間違っていてもっと生きられるんじゃないのかと知りたいわけか・・・」
「1日も無駄にしたくないから・・・・だいたい3ヶ月が嫌なんです。
明日死ぬかもしれないと思いながら過ごす1日と、明日は生きているとわかって過ごす1日は私にとってはものすごく違うくらい残された時間は多くないし」
「余命を宣告されると言うことはそう言うことだろうな。
いや、本来は明日生きている保証なんて誰にも無いはず、それに気が付けるのは命のゴールが見えてしまった人間だけで、明日は来ると大概の人間は思っていて自分の明日が無いことなんて考えもしないものだ。
それに気が付いて、私を頼ったお前はラッキーなのかもしれない。
お前の事は調べて知っている」
わかっているのならあえて、話す必要は無い紗菜の現状を確認するように話し出すモルテ。
もちろん、それは聞いている真に聞かせる為。
前原紗菜23歳
21歳でトリプルネガディブ乳がん、見つかった時には肺に転移あり。
ステージ4
遺伝性乳癌卵巣癌症候群(HBOC)
抗がん剤→手術→抗がん剤
残留癌あり、維持療法中に、卵巣に癌が重複がんとして発生、抗がん剤治療開始、数回の抗がん剤の種類を変えながら投与してきた。
全ての使える抗がん剤を使い切り、紗菜に効く抗がん剤が無く、標準治療終了。
緩和ケアに移行。
現在は薬で痛みを抑えながらの自宅療養中。
画面に映る姿はピンクのケア帽ではあるが、色白の目鼻立ちの整った綺麗な顔をしている。
ただ、たまに身振りを加えて話すその手の指の爪は度重なる抗がん剤の副作用で黒く変色している。
指に向けられたモルテの視線に気がつく。
「あっ、これ?、抗がん剤の副作用、でも、もう抗がん剤は出来ないし、爪が伸びたらまた元に戻るから大丈夫、気にしないで」
「別に気にしてはいない。
アイドルだと言っても不思議がられない顔だな」
乱暴で失礼な言い方であるが、言った本人は間違いなく褒めているつもりだ。
「ありがとう。でも、アイドルとか芸能界とか人の前に立つ仕事には興味ないなっていうか、遠くの未来に夢は持てないのわかってるし。
私は今を大切に生きたい。
1日だって無駄にしたくないし、だから知りたいんだ。
残された日、ううん、私に与えられてる時間」
「お前はあと217日生きる」
「7ヶ月?、やったぁ、医師の余命より4ヶ月も長く生きられるのね」
「だからといって元気な時期が7ヶ月あるわけじゃ無い」
「わかってまーす」
※「7か月後にこの人、死んじゃうの?・・・私より1歳上なのに?」
「死神である私に自分の命を救って欲しいと言うのはお門違いではあるが、どうにかならないか?と聞かないのはなぜだ?」
「どうにかできる?」
「できない」
「繰り返してきたよ。抗がん剤が効いて癌細胞無くなったら再発、また抗がん剤、再発、髪の毛が生える暇も無かった」
笑顔でケア帽を外した紗菜の頭には毛はほとんどなかった。
「頑張っているのに頑張ってって言われたくないとか思ったりもしたけど、頑張って以外の言葉って言いにくいよね。
治るよって言える?そっちの方が辛いよ。
元気は?、元気ではないよね?
でも、私は大丈夫が好き、大丈夫じゃないけど、大丈夫じゃないのはわかっているけど、大丈夫が好き。
言われるのも、言うのも好き。
大丈夫だよ
大丈夫?
大丈夫だから。
でも、大丈夫の意味はどうでも良いんだ。
言葉の意味を考えたら、私たちにかけられる言葉なんて何も無いよ。
何も言えなくなる。
大丈夫なわけないし、元気なわけないし、治るわけ無い人になんて言う?
頑張ってる人に頑張っても言っちゃいけないなら、なんて言葉をかける?
言える言葉がなくなって、みんな距離を置くよ。
嫌いだからじゃなくて悩むのかな?
めんどくさいことからは誰でも逃げたい。
私も、私以外も。
何も言われない事はもっと寂しい」
「大丈夫が好きか・・・君は強いな」
モルテの二人称がおまえから、君に変わった。
つづく




