http:寿命買わせていただきます 3《加害者の父②》
24時になった
「菅原です」
「サイト管理人の死神のモルテだ」
「私の寿命を買って頂けると言うことですか?いくらになります?お金はいつ頂けるのですか?臓器を売るのですか?私は健康ですから高く売ってください」
かぶせるように質問をしてくる圭一にモルテは静かに答える。
「まだ、検討中。それに、失礼だ!臓器とか買ってない・・・・。
少し、話を聞かせろ」
「なにも考慮して頂かなくて結構です、買って頂きたいだけですから、私は・・・」
「もし、誓約したなら、おまえが入金を確認してから命を回収する。
命だけ奪うような卑劣な事はしないと約束しよう」
「1,000万は超えますか?」
「ああ」
「じゃあ、今すぐ自殺しますから」
「自ら命を絶っても入金はされない。
あくまでも私によって命が絶たれたときに発生するお金だからな」
「私の何が知りたいんです?なんでもお答えします。息子が犯罪者に・・・」
「おまえの事は調べた。私に知りえないのはおまえの気持ちとおまえの死ななかった時の未来だ。
死んだとしてもその後の未来もわからないがな」」
「今から動画をアップするから見ろ。10分、見終わったら消滅する。それを見れば私の話が嘘ではない、私が死神であるとわかるだろう」
モルテが送信ボタンを押すと画面から変わり、圭一の生まれた時から今日までの映像が流れ始めた。
赤ん坊だった自分を抱く両親の映像に見入る
涙がとめどなく流れ落ちる
誠や明里が子供の頃、そして犯罪者になってから・・・
10分ほどにまとめられた自分の送ってきた人生を見せられた圭一
「私との契約は確実です。私にはその力がある」
「納得しました、でも、気持ちは揺るぎません。
改めて寿命を買って頂きたい。お願いします」
圭一は深く頭を下げている。
「わかった。
おまえの寿命を買おう。
生きることから逃げるお手伝いをしてやろう。
誰でも煩わしいことからは逃げたいものだ。
マスコミから、家族から、そして苦痛から逃げるのは一番楽だ。
想像できるおまえの未来に明るい出来事なんて何一つない。
逃げて、それにお金がついて来るんだからラッキーな選択だな」
死神らしからぬ軽い感じで話すモルテ
「逃げるわけじゃ・・・」
「逃げることが悪いって言っているわけじゃない。
我慢しないで逃げたほうが良いこともあるし、無理しても良いことなんてないからな。
それに、おまえ、逃げ癖ついてるし、仕方ない。
寿命買おう、契約書送信する」
「逃げ癖?」
お前が死んで、金が入って残された妻や娘は幸せになる・・・と思っての決断だろう。
息子や兄が起こしてしまった罪から一生逃れられなくても金さえあれば苦しむことなんてないと思いたい。
金さえあればどうにかなると思いたい。
お前はさっさとその舞台から降りてしまえば、あとは関係ないって感じだな。
天国と地獄の間に現世があるわけじゃない。
天国と複数の地獄です。だから、現世でも苦しいことも辛いこともたくさんある。
おまえが今選ぼうとしている道は行き止まりだ。
残された家族が生きる道はいばらの道でも道は続いている。
とげに傷つき、そしてそれでも進んでいく、それが現世です」
圭一の頭の中で、美幸と明里が支えあいながら、傷だらけで歩いていく姿が浮かんでいる。
「それが病死であっても、老衰であっても与えられた寿命を全うする事が前世の贖罪なんです。だから、私の力で死を選ぶことはいかなる理由でも逃げるって事。
止めてるんじゃないですからね、私にとってはおまえは最上の客だし、
俺の成績爆上がり!
では、契約書を送ります。画面上のサインに触れて頂くだけで大丈夫です」
「ちょ、ちょっと待ってください。俺が‥私が死んだあと妻や娘はちゃんと幸せになりますか?」
「そんなの知らんし・・・・。
あっ、私には未来は見えませんからわかりません
残った寿命を提供するという事は、残された人間がお金で何らかの幸せを得られるとか、辛さから逃げることが出来るとか思いたいからだろう。
でも、どうなるかは自分の目で確かめなければわからないし、
おまえは自分がお金を残すことを免罪符に生きることから逃げようとしているだけじゃないのか。
それが悪いわけではないが、おまえが気にしている家族の未来を知ることが出来ない選択をするってことになる。
それが死だ。
もう、家族の事は気にしないで楽になってサインを」
「待ってください・・・あと少しだけ」
「悩んでいるのならやめなさい。
二度と今いるその場所には戻れない。
生きるほうがずっと大変な人生もあるだろう。
私には時間を戻すことは出来ない。
おまえを犯罪者の親にしない事は出来ない。
おまえの家族の苦しみを和らげることもできないし、一緒に戦うことももちろん出来ないししない。
私に出来ることは、死期が来たときに迎えに行くことと、寿命を頂戴すること。
そして、どんなに短くても与えられた寿命を全うした人と、そうじゃない人は同じ場所には行けない」
「キャー」
突然、家の奥から女性の叫び声が聞こえ圭一は振り返った
「ちょっと、失礼します」
寝たはずの美幸が布団にくるまって震えている。
「どうした?落ち着いて」
「また、誰かが石を投げてガラスが割れて・・・パパ、怖い、窓から誰かが覗いていて、人殺しの母親って私を責めるの」
ガラスは割れておらず、あたりはシーンとしている
前の家での出来事で美幸はPTSDになっていた。
「大丈夫だ、俺がそばにいるから」
抱きしめる圭一
「何年ぶりだろうか?、美幸を抱きしめるなんて・・・、このまま、この弱っている美幸を置いて行って良いのか?、今じゃないのかもしれない・・」
しばらくすると抱きしめている美幸から恐怖の感情が消え、寝息を立て始めた。
またPCに戻る圭一
「申し訳ありません、途中で・・・」
「気にしないでいい。っで、サインは?」
「サインは・・しません。もう少しここであがいてみようと思います」
「そうか、わかって。では」
「あっ」
「2回目は無いからな、頑張って生きろ、それがお前の選択した道だ」
モルテは電源を落として、またもやパソコンに顔を伏せる
「はぁ、死神が‥頑張って生きろってか?
俺は止めたかったわけじゃない!」
ワルキューレPCにはまだ圭一の情報が映し出されたままだ。
美幸、寿命残り426日、死因 病死
誠 寿命残り1.460日 死因 刑務所にて自殺
明里、寿命残り865日 死因 事故死
「ただ、誰か看取ってやんなきゃさ・・・この家は死神が忙しすぎるよ」
続く