http:寿命買わせていただきます 27 《AYA世代》
あんなが死神になったとモルテの元に戻ってきた日も、相変わらずサイトには自殺したいけれど自分で死ぬのが怖いからお金はいらないから殺して欲しいのメッセージばかりが届いている。
「それ、もう受けちゃえば?、モルテの成績爆上がりじゃん」
「君は死神見習いでしたよね?」
「あ・ん・なは死神見習いです」
「じゃあ、私の指導下で良いんですよね?」
馬鹿にしたような真顔であんなは何度もうなずく。
「死神の仕事はむやみに人の命を奪うことでは無い。
と、私は思っている。
それが許されるのなら、成績を上げるために人を殺す死神がいても不思議ではなくなる。
死神の仕事の基本は、寿命を全うした人間を迎えに行く事だけだ」
「知ってるよ。
モルテが自分の価値を高めるために人殺しをしない事も、殺すことを仕事と割り切ってない事も」
「少し違うな、なら、なぜ、私はサイトを開設した?、それは成績を上げるために他ならない。
人はさぁ、一回死んだら生き返らない。
奇跡の生還とかって死んでないんだよ。
死神が迎えに行く前に現世に戻っているのは死んでないから。
迎えに行った死神が躊躇したのか?、この人間をもう少し生かしておきたいと思ったのか?はわからないけどな、いや、元々死ぬ予定ではないから迎えにさえ行ってない可能性が高いな。
俺は・・・私は殺さない死神になりたいわけじゃないし、殺す事を躊躇っているわけでもない。
人の死をつかさどる身としては、究極の矛盾だよ」
「その自己中で矛盾だらけの死神が私はたまらなく気になるんだけどね・・・・」
ささやくあんなの声はモルテにも届いてはいた。
モルテはスッと立ち上がると、大きく回転させてマントをかぶった。
「これから仕事に行くけどお前も同行しろ」
「あんなだってば」
===
緩和ケア病棟のベッドに寝ている若い女性。
モルテは静かに鎌を下ろす。
「とうとう私は死んじゃったのね。
死神さんと見習さん?
見習さんは私より少し若いのかな」
女性はベッド周りで悲しみ涙する家族の身体に次々に触れ移動しながら話してくる。
「死神がいるなら、神様もいるよね?
癌がわかった時、何度も神様に願った。
私だけじゃなくて、私の家族もみんな願ってた。
でも、検査結果が出るたびに腫瘍マーカーは上がる一方で、
効かない抗がん剤を何度も変え、ついに使える抗がん剤は無くなってこの世に神様なんていないって思った。
神様だからあの世にいるのか?」
自嘲気味に笑う幸子。
「神様がいるのなら誰かを救ったり、救わなかったりする基準ってなに?
命を奪うような病気になる人を選ぶ基準ってなんなの?
どんなに良い人間だって早くに亡くなる人もいれば、長生きする悪い人間もいる。
神さまが何を基準に生かす人と生かさない人を選ぶのかわからないよ。
私は若くして命を落とす程、悪いことしてない。
困っている人には迷わず手を差し伸べた。
電車でも迷わず席を譲った。
ううん、子供の頃だって、クラス替えして一人でいる子には率先して声をかけたよ。
それでも、私は早く死んだ。
そんな小さな親切や優しさでは足りなかったわけ?」
「病気になるのは罰じゃない。
耐えられるから与えられた試練でもない」
「なぜ、私なの?って思わない日は無かった。
死神さんと見習さんさんはどう思う?」
高嶺幸子26歳
遺伝性乳がんにて本日死亡
あんなはモルテの顔を見ているだけで口を開こうとはしていない。
「死は罰じゃない。
悪いことが起こった時に罰だと思うのは、自分が悪いと言いたいのか?そうじゃないと言いたいのか?私には理解しがたい。
なぜならば、罰だと思うのなら、自分が悪いことをしているかもしれない自覚があるからだろう?
やましいことが無ければ、自分に罰が与えられると思うか?
そうじゃないなら、あえて口に出して誰かに否定して欲しいからだと思われても仕方がない。
脚立から落ちたらそれも罰かな?なんて言ってる輩もいたな。
それは罰ではない明らかに不注意だ。
しかし、あなたは悪くないから罰じゃないと言われたい人間がいることは不思議ではない。
お前は今、私にお前は悪くないと言って欲しいのか?
そして、寿命は誰にでも均等に与えられているわけじゃない事を理解しろ」
「不摂生をして病気になる人と、そんなことしないのに病気になる人はなにが違うの?」
「不摂生をして病気にならない人もいる。
不摂生をしてない自分が癌になったのが許せないのはわかる。
お前の聞きたいことは、自分がなぜ若くして死んでしまったか?だろう?
いちいち、死んでしまう事に理由を付けようとするな。
人間の世界の死因は私には関係ない。
お前の望む答えは返せない」
「でも、悔しいよ・・・・」
「じゃあ、悪い奴は死ね!。良い人は長生きしろがお前の正義か?」
「・・・・違うけど」
「残念ながら、みんなに同じだけの寿命が与えられているわけじゃない。
お前は、いやお前たちのような若い世代の病気になる人間をAYA世代と言うそうだな。
お前は勇者だよ。
最後までよく戦った。
最後まで諦めなかった人間は勇者だ」
「勇者?」
「お前は与えられた寿命より3日、多く生きたよ。
それはそうある事ではない。
終わるのが悪いことではない。
死は絶対悪じゃない。
痛みから解放される道は、もうそれしかないんだからな。
それでも、お前は頑張った。
褒めてやる。
寿命を全うするだけじゃなくて超えた」
「私、死神に褒められてる?」
幸子に少し笑顔が戻った。
「親がさ、時代遅れの名前つけて、あっ、私幸子ね。
幸せの子と書いて幸子。
全然、名前にそぐわない人生だったな」
「幸せじゃなかったか?
病気になってからの大変だった記憶で幸せだった時代の記憶を覆い隠すな。
無駄話をしすぎた。
私にはお前の疑問に答えてやれる立場でもなければ、知識も無い。
悪かったな。
お前がお前でいられる時間は49日だ、それを過ぎたら天界に上がる。
死んでしまった事を恨むなら私を恨め。
残された自分の時間を負の感情に支配されて無駄にするな。
そして、また転生して、その時は生きろ、幸子」
私の仕事は終わった。
失礼する」
モルテは幸子の前から消えた。
あんながモルテのマントの脇を引っ張る
「モルテ、あの人の名前呼んだね、私の名前は呼ばないのに・・・」
「でも、彼女に疑問には何一つ答えられなかったな・・・悔いを残してしまうだろうな」
「良いんじゃない、だって、正解なんてわからないんだから。
それに、彼女は勇者よ、大丈夫、前を向いて転生できるよ」
「転生の道を選ばなかったお前に言われてもな」
「あ・ん・なよ」
人の寿命がどこで決められているのかはモルテも知らない。
つづく




