http:寿命買わせていただきます 23《正解とも間違いとも言え無い選択》
もし、残された自分の命と誰かの命を取り替えることが出来たのなら…
モルテは日々の仕事、回収する命の一覧を見て、今日が回収期限の女性の元へ向かった。
病室のベッドを囲む家族のすすり泣く声も聞こえない程の強い雨が、病室の窓を叩く。
生を手放した女性はモルテを見て微笑んだ。
「これで良かったんだな?」
「はい」
モルテと女性は初対面ではない。
今からひと月前、サイトにメッセージが届いた。
「私の命はあまり残ってないと思うから、お金にはならいのはわかってる。
でも、お願いがある。
助けて下さい」
多少の興味でワルキューレPCで女性の情報を見ていた。
寿命、残り28日。
「サイトのタイトル理解しろよ」と呟きながら、モルテの指はいつもの定型文を送信するキーを押していた。
本日の24時、サイトにリンクされているライブチャットルーム99に入室してください。
入室キーは@death
モルテは長い足をデスクの上に上げて、腕を組み椅子に身体を預けまぶたを閉じた。
24時、チャットルーム99に女性が入ってきた。
女性の名前は菅野愛35歳、末期の胃がん、家族は夫と7歳の娘と5歳の息子がいる。
愛がメッセージに書いてきた言葉にモルテは興味を持ち、チャットルームに招待した。
「私の寿命と知らない誰かの寿命を交換したい。そして、5年生きたら、残りの寿命はあなたに差し出すから」
人間の考え方に興味があるモルテは、この自己中過ぎる考えを持つ女性の話を聞きたくなっていた。
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「私の願いをきいてくれるのですか?」
「まだ、決めてはいない、ただ、その自己中心的な考え方が出来るお前に興味が湧いただけだ」
「誰かと変わる事は出来るの?」
「死神は命を操る事が出来るからな」
「なら、お願いします。5年だけで良いんです。
あと、5年夫と子供と過ごせたなら、必ず貴方に殺されますから」
「私は人殺しでは無い、でも、お前が誰かの命を奪って生きるのなら、それは人殺しだ」
「わかってます」
「後悔しないんだな?」
「はい、生きたいです。どんなに酷いことしてでも」
「そうか、なら、明日から3日間、お前に元気な時間をやろう、その中で、寿命を奪いたいと思った人間の手を握り、命を頂戴と声に出して言え、そこで一瞬時間は止まる。その後、お願いと口にすれば、寿命は交換される」
「手を握って命を頂戴と言うんですね」
「そう、その後の止まった時間に起こる事を確認後、お願いと言えば契約は結ばれる。簡単な事だ。
寿命が交換されたら、5年はお前にやる。
残りは貰うからな。
長生きしそうな人間を選べ」
「わかりました」
チャットルームは閉じられた。
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その翌日から、寝ていた事が多かった愛は、痛みに苦しむ事も無い時間が始まった。
やりたかった家の片付けをし、子供たちに久しぶりに料理を作った。
学校に送り出し、1人になり、部屋の片付けを始めた。
「今、やらなくても私には5年の時間が与えられるんだ、良いんだ、今じゃなくても」
愛はお気に入りの服を着て、繁華街に出てきていた。
たくさんの人で溢れた交差点が見えるカフェ。
この中で命の残りがわずかなのは私だけなのかな?と思いながら、行き交う人々を眺めていた。
犯罪者になるわけではなく、誰かの命を奪える自分に多少の戸惑いはあるものの、子供達と離れたく無い気持ちがそれを上回っている。
さっきまで上から見ていた交差点に降り、自分と変わる誰かを選ぼうとはするものの、誰の手を握る事も出来ずに家に帰って来ていた。
「まだ、2日ある、明日は必ずし誰かの手を握る」
2日目は、夫も子供も休みで「ママ、今日も調子良さそうだな。少しドライブでも行くか?」の声に子供も大喜び。
車で2時間ほどの観光地に来ていた。
「ママ」とはしゃぐ子供たちに顔がほころぶ。
「もっと、この顔見ていたいなぁ」
そう思った時、愛は、たまたま横を通った自分より少し年上の男性の手を握っていた。
「命を頂戴」
口にした瞬間、愛の頭の中に映像が浮かんでいた。
手を握る男性と向かい合って座る女性
ワイングラスのぶつかる音
「今年もまたここで結婚記念日のお祝いができて嬉しい」
「来年も、その翌年もここでお祝いしよう」
「私に子供が出来なくて、あなたに寂しい思いをさせてしまって申し訳ない気持ちがまだ消せてないけど、あなたと結婚できて幸せ」
「恥ずかしい事言うなよ。俺はね、君がいてくれたらそれだけで毎日幸せだよ、君と1年、1年、歴史を積み重ねて、思い出も
積み重ねて残りの人生も過ごしていきたいと心底思っているよ」
向かい合う女性が涙を拭う。
愛の手が、男性の手から離れた。
いきなり手を握られて驚く男性
「あっ、ごめんなさい、夫と間違えてしまって」
愛は、頭を下げ家族の元に駆け出していた。
子供を抱きしめる愛
「ごめん、言えなかった。お願いって言えなかった」
号泣する愛を夫は優しく抱きしめた。
号泣の理由を聞かれる事はなかったけれど、家についても涙は止まらなかった。
最終日の3日目は誰かの手を握る事に葛藤しながらも、何人かの手を握るけれど「お願い」の言葉を発する事は出来なかった。
そして、25日後、モルテの迎えの日
「これで良かったんだな」
「はい」
「それなら良い」
「何度も握ったんです。でも、その誰にでもそれぞれの人生があって、それを見せられるたびに、人の命を欲しいと思う自分が恥ずかしくなっていきました。
罪に問われなくても、人の命を奪って生きて幸せな時間だと思えるのかな?、そんな事をした私を家族は喜んでくれるのかな?喜んでくれたとして、私はそれが嬉しいのかな?と。
誰かの命を奪わずに、自分の寿命が伸びるのならこんな幸せな事は無いし、それでも生きたいと握り人の命を奪う人を責める気にはならない。
もっともっと家族と一緒に過ごしたいから、何度も何度も挑戦したけど、怖くて無理でした」
「人間だからな」
「そして、その人の人生がその人の物であるように、私の残り少ない人生も、私の物なんだと理解しました。
あなたに会わずに死んだのなら、きっと、恨み、つらみ、悔しさのネガティブな気持ちだけを残していたと思う。
もし、誰かの命を奪って生きたのなら、後悔と懺悔と自己嫌悪の時間を過ごしたと思う。
だから、今、辛くて悲しくて仕方ないけど、ママは恥ずかしい事はしてないって子供達に言える自分で良かったと思う。
ありがとうございました。
でも、やっぱり偽善なのかな・・・」
「49日間、家族と過ごせ、じゃあ、私の仕事はここまでだ。
お前は立派な母親だったよ」
モルテはマントをカッコつけるように翻しその場を去った。
「くそっ、また、お礼を言われた、私は死神として何か間違っているのか?
私にとっては、手を握り他人の命を奪う人間の方が正直な人間だと思う。
しかし、故意に他人の命を奪うことに躊躇い、拒絶する人間の方に興味を持ってしまう」
つづく




