http:寿命買わせていただきます 2《加害者の父①》
http:寿命買わせていただきます
サイトを公開してひと月が過ぎた。
たまに来る依頼は冷やかしと自殺志願者がほとんどを占める。
その中にもたまにモルテの興味の湧く依頼もある。
※私の寿命を今すぐに買ってください。
息子が殺人を犯しました。
被害者への補償と加害者の家族になった妻やほかの子供達が人並みに生きていけるためのお金が必要なんです。
このサイトの噂を聞きました。
半信半疑ではありますが、他に頼れるものがない・・・。
生命保険は自殺して保険金がもらえるまでには契約後3年経過が必要です。
私はまだ契約して1年未満です
モルテはこのメールの人物に興味を持った。
ワルキューレPCに認識番号を打ち込み、メールの人物の個人情報を見ている。
菅原圭一、52歳 会社員
妻、美幸 50歳、息子、誠 24歳(殺人犯)娘、明里21歳 大学生
息子、誠は4か月前、一方的に好意を寄せていた女性を殺害して、1か月の逃亡後逮捕起訴されている。
モルテは普通のPCで返事を出した。
※本日の24時、サイトにリンクされているライブチャットルーム99に入室してください。
入室キーは@death
99チャットルームだけは、ワルキューレPC上にある。
入室予定の24時になるまで映し出される圭一の人生を見ていた。
けして裕福な家庭ではなかったけれど、愛情にあふれた両親に育てられ、
奨学金で国立大学に入学し、そこで知り合った下級生と5年後に結婚している。
数年後、誠が生まれ、その後、明里が誕生している。
奨学金の返済も終わり、都心からは少し離れているけれどマイホームも手にいれた。
家のローンは定年の60歳まで残っている。
通勤時間が長くなり、仕事も忙しく家族と過ごす時間は短くなり、夫婦の会話も子供達との会話もほとんど無くなっていた。
殺人犯になった息子は父親と同じ大学を3年連続で受験に失敗し、明るかった誠は笑わなくなり、ひきこもることが多くなった。
誠と話す約束をしていた日にも、急な接待が入ったとドタキャンしている。
「誠と話す約束してたじゃないの!」
「仕方ないだろう、大事なお客様から誘われたんだから」
「あの子はこれからの事、あなたに相談したいのよ」
「予備校の時間を増やすか、なんなら家庭教師でも付けてやれ。それくらい授業料増えても問題ないくらには金は渡してるだろう」
「家なんかいらなかったわ。家族が一緒の時間が減って、ローン返済があって旅行も外食も行けなくなった」
「お前のやりくりの問題じゃないのか?!」
夫婦間の争いは時間の経過とともに争うことも避け、無視に変わっていった。
誠はたまたまネットで見かけた18歳の地下アイドルに恋をした。
ライブにも握手会にも参加するようになった。
その費用は家から外に出てくれるのならと美幸が渡しているが、圭一も納得してた。
貢ぎたいからと大金を要求するわけでもなく、交通費プラス握手券代くらいだったのがアイドルにのめり込んでいる度合いを知ろうとしなかった理由の一つにある。
その息子が、アイドルの一言に傷つき、この世から大切なひとつの若い命を奪ってしまったのだ。
息子が逮捕されてからの菅原家は悲惨だった。
メディアに家を公開され、ヘリコプターが真上で旋回、番地までさらされた。
SNSで拡散され、あることないこと書かれ吊し上げにあっているかのようだった。
家には石が投げ込まれ、ガラスは割れ、電話は鳴りっぱなし、やっと手に入れたマイホームを捨て、誰も知り合いのいない田舎の町に3人で身を潜めるまでに時間はかからなかった。
圭一は仕事を自主退職してわずかながら退職金が入る予定にはなっている。
家が相場で売れても、退職金と残りのローンが相殺される程度。
家が殺人現場になったわけではないけれど、すぐに売れるはずもなくわずかな貯蓄を切り崩しぎりぎりの生活を送っていた。
母、美幸はパートに出ることも出来ずに、家で泣いてばかり。
大学に行くことも出来なくなった娘明里は、しばらくは家にいたけれど今は行方知れず。
圭一は田舎町の小さい町工場で毎日汗と泥にまみれて仕事をしているが、収入は以前の半分にも満たない。
圭一の寿命は94歳、大病もせずに寿命を全うする予定だ。
圭一の命の時給は平均の20円超えの37円と高額になっているので、寿命の残は362,118時間、13,398,366円にもなる。
これが決まれば、モルテの点数は一気に上がることが見込まれた。
続く