表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/34

http:寿命買わせていただきます 18《ヤングケアラー》

「俺はあの老人の父親だったのか?、でも、人間だった記憶は何もない」


リストの赤字の処理を終えてモルテは自室にいる。


ワルキューレPCで涼子の事を調べればわかるとわかってはいてもそれはせず、気を紛らすように「http:寿命買わせていただきます」サイトを開く。


自力で死ぬことが出来ない自殺願望人間のメッセージと、誰かを消したい人間のメッセージの中に埋もれるほど少ない寿命をお金に変えたい人間を探す。


「私の寿命を買ってください」


「おおっ」


前屈みにディスプレイを覗き込む。


このサイトに書き込む理由は基本的には3つ


1.自力で自殺したくない、できない、

基本受けないが、まれに興味があると接点を持つことがある。

自殺を考えている人間は何度も繰り返し決行し寿命が短い場合も多い。

でも、寿命が長く気になる理由がある場合は稀に受ける。


2・誰かを殺して欲しい。

この場合はお金か欲しい時と、消えて欲しいだけの場合がある。

殺人の依頼は受けないが、殺人を依頼した人間の寿命を奪ったことはある。

吉川夫妻がこれに当てはまる。


3・死ぬならお金になれば良い

ただ単にこの世界から逃げたいほぼ自殺だとモルテが思ったら避けて通る事案。

病気等で余命が分かってお金に変えたい依頼はモルテのポイントにはならないので基本受けない。


4・寿命もあるし生きたいけれどお金が必要、お金が得られるのなら死ぬ事も選択肢にある。

借金の返済相手であったり、残される家族であったりと残したい理由も相手も人によって違う。


この4の依頼を受けることが多い。



「私の寿命を買ってください。介護に疲れました。

寿命を買ってもらったお金で祖母と母を介護施設に入れて、私は死と言う形であっても解放されたい」


堀 真奈美 28歳 


モルテはワルキューレPCで真奈美を調べ始める。


親の離婚で5歳で祖父母に預けられた真奈美。

11歳の時に祖父が倒れ祖母と協力して介護をしながら学校に通う。

16歳の時に祖父が亡くなり、1年も空かずに祖母が倒れ、1人で介護生活になった。

娘である母親に連絡はしたが実家に戻ることは無く、22歳の時に警察からの連絡で母親が事故で身体が不自由になり、祖父母宅に戻ることになり、祖母と母の介護生活が始まる。


寝たきりであっても祖母は真奈美を気遣いながら生活していたが、母親は文句や愚痴が多くヒステリックな性格だった。


「生かしたいけどな・・・」


モルテは自分の呟きを打ち消すように数回首を振った。


堀 真奈美 寿命 62歳 

堀 雅代(祖母)寿命84歳(残り1年) 

堀 真紀子(母)寿命77歳(残り29年)


真奈美が介護から解放された後の自由な時間5年、57~62歳


モルテは定型文を打ち込んだ。


※24時にサイトにあるライブチャットルーム99に入室してください。

入室キーは@death


「真奈美の寿命金額は730万くらいか・・・介護施設に入れても支払い続ける金額じゃないな」


24時チャットルームに真奈美が入室する。


「堀真奈美です」

「自己紹介は不要、あなたが寿命を売りたい理由を聞かせて欲しい」


真奈美は今日に至るまでの介護に追われている生活の内容を淡々と話す。

モルテの調べた通りで、大げさに話すわけでも、事実以上に大変さをアピールするわけでもなく。


「ヤングケアラーってやつですね」

「おしゃれに聞こえますね、ヤングケアラーって。

青春・・・なんて無かったし、自由も無なかった。

自由を得るために捨てることも、離れることも出来ない小心者」


「青春とは心の若さである。 希望と信念にあふれ勇気に満ちて、 日に新たな活動を続ける限り 青春は永遠にその人のものである。松下幸之助の言葉だ」


「若い時に苦労しても、そのあと自由に、そして成功した人だから言える言葉よ。

自分らしく生きていたとしても、15歳と65歳の一年は同じじゃないし」


====

「青春とは人生の或る期間を言うのではなく、 心のもち方を言う。 薔薇の面差し、紅の唇、しなやかな手足ではなく、 たくましい意志、豊かな想像力、燃える情熱をさす。 青春とは人生の深い泉の清新さを言う。


青春とは臆病さを退ける勇気、 安きにつく気持ちを振り捨てる冒険心を意味する。 ときには、20歳の青年よりも60歳の人に青春がある。 年を重ねただけで人は老いない。 理想を失う時に初めて老いる。 歳月は皮膚にしわを増すが、 熱情は、失えば心はしぼむ。 苦悶や・恐怖・失望により気力は地に這い精神は芥にある。


60歳であろうと16歳であろうと人の胸には、 脅威に魅かれる心、おさな児のような未知への探究心、 人生への興味の歓喜がある。 君にも吾にも見えざる駅逓が心にある。 人から神から美・希望・喜び・勇気・力の 霊感を受ける限り君は若い。


霊感が絶え、精神が皮肉の雪におおわれ、 悲嘆の氷に閉ざされるとき、 20歳であろうと人は老いる。 頭を高く上げ希望の波をとらえる限り、 80歳であろうと人は青春にして已む。」


    サミュエル・ウルマン 「青春」  


====


「あなたはこの介護生活の先に青春があると思う?

勉強したい時に出来ず、将来の夢を見ることも出来ず、目の前にある作業を片付けながら生きて来た17年よ。

それがいつまで続くのかわからない。

介護生活が終わってから勉強すれば良いとか言わないでよね。

記憶力も集中力も衰えて行くばかりなのに、今なら1年で出来ることが数年かかるようになっているかもしれない。

ゴールが見えているのなら、そのゴールを目指して頑張れるけど、もう疲れちゃったのよ」


「捨てて逃げたらいい」


「捨てて忘れてしまえば、28歳の今からなら夢を見ることは出来るのかもしれない。

ずっと、捨てたことを後悔しながら生きて行く事が嫌じゃないならね。

悲しいかな、自分勝手な性格には育ってない、まともな育ち方してるわけじゃないのにね」


「勝手な想像して、先を読んでるつもりになって、逃げないかわいそうで大変な私に酔っているのか?」


「なんとでも言ってよ。

あなたが何者なのかは知らないけど、私の寿命を買って私を殺して」


「殺すか・・・・、お前の寿命を今買い上げると730万程度だ」

「730万、意外と少ないのね」

「残っている寿命と、その人間の価値で命の時給が決まる」

「人間の価値って?」

「生涯年収、知識、人格、好感度、人からの評価等だな」


「価値って、学歴とか、職業とか関係するのなら私の価値は低いのも納得するよ。

学校なんて休んでばかりだし、家で教科書開いた記憶さえ無いよ。

なんか、残念な人生が命の値段にまで連鎖し続けるのねぇ、命の値段なんだから健康な事だけで換算されるべきだと思うけど。

でも、本当は金額なんてどうでも良いのかも。ただ、逃げ出しただけ」


「だとしたら、捨てて逃げる事も、死んで逃げる事も変わりはないと思うが」


真奈美は大声で笑った

「かっこつけてお金を残したいからなんて言っちゃったけど、金関係ないなんて言ったらそう言うことになるよねぇ、

私はみんな捨てて逃げたいだけなんだね」


「逃げる方法はその居心地の悪い場を離れる事とするなら、生きて離れるか?死んで離れるか?

お前は死ぬ方を選ぼうとしているだけの事だ。

私にとっては、寿命の残っている人間の命を奪うことは大歓迎だがな。後悔はしないのだな?」


「あなた、優しいのね」

「はぁ?、ふざけるな。私は死神だ」

「死神は怖いもので、天使は優しいものって誰が決めたのか知らないけど、辛いこと、大変な事ばかりで優しい天使の存在を感じたことは無い。でも、あなたの優しさは言葉のはしはしから感じ取れるから」

「それは不本意で不愉快だな」

「私の命をあなたにあげるわ、あなたで良かった。

おばあちゃんだけは最後まで世話したかったけど、お金はおばあちゃんの為に使えるようにして」

「私にお金の使い方を決定できる力はない。気になるのなら自分でちゃんと準備してからにしろ」

「へ?」

「あと1年以内に私は雅代を迎えに行くことになっている。

その後、お前の気が変わっていなければ契約しよう」

「おばあちゃんの命があと1年って事なの?、でも、それで良いの?あなたにとっては私の残りの寿命は役に立つのでしょ」

「その1年でお前は命の時給を上げる努力をすることが最初の契約だ」


真奈美の画面上にその旨が書かれた契約書がポップアップする。


「寿命の価値が上がれば私に入る点数があがる。

それが先送りにする条件だ。

ちゃんと、学びたいことを学び、やりたいことをやり、自分らしく、そして後悔しないように雅代を見送ることでお前の価値は上がる。

努力を惜しむようならその時は遠慮なく1年を待たずにお前を黄泉の国に連れて行こう」


「もし、1年後に私の考えが変わって生きたいと思っていたなら?}

「雅代を見送った後、お前の気持ちが変わっていたのなら好きにしたら良い」


真奈美は画面上の契約書の署名欄に触れる。


「私との契約は今日から1年だ、1年後にまた会おう、再契約を楽しみにしている」


モルテはワルキューレPCの電源を落として、椅子の背もたれに体重を乗せて両手をあげ伸びをする。


「あんながいたなら、また腹抱えて笑っただろうな、優しい死神って言われてんのっとか言って」


モルテは真奈美が1年で変わることを確信している。

そして、1年後に再契約には至らず、二度と会うことは無い事も。


つづく



















評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ