http:寿命買わせていただきます 1
彼の名前はモルテ、人間には死神と呼ばれている。
人間の死をつかさどり、管理する存在である・・・と思われている。
っが、死神にも序列やランクもある。
ランクによって地位や立場、そして与えられる権限も違えば、上を目指すもの、そしてそれを面倒、窮屈だと思う死神がいても不思議ではない。
人間の寿命を回収することで点数が与えられ、それによって死神のランクも上がっていく。
ほぼ営業、または徴収みたいな事をしているのが下位にいる死神である。
モルテの担当地区は日本である。
そして、彼のランクはCでその下は無い。
「このままでは私は天使になってしまう。
やっとなれた憧れの死神、やめたくない。
天使のほうが良いんじゃないか?ってきっと普通は思うだろうが、あっちは仕事の拘束時間が長すぎる」
切羽詰まったモルテはHPを開設した。
いわゆる闇サイトだ。
サイト名「http:寿命買わせていただきます」
今日もモルテのサイトにメッセージが届いた。
※病気で余命を宣告されました、家族の為に少しでも多くのお金を残したいんです。
私の寿命を買ってください
※メッセージ受け取りました、お受けするかどうかお話をうかがった後にお返事させていただきます。
24時にサイトにあるライブチャットルーム99に入室ください。
入室キーは@death
定型文がボタン押し返信された。
モルテは暗闇の中、2台あるパソコンの装飾が派手な黒いPCに触る。
この装飾の派手なパソコンは死神の世界とつながっている。
死神の世界では人間界のPCと区別するためにそのPCをワルキューレと呼んでいる。
青白く浮かび上がるモルテの容姿は細面にウエーブのかかった腰までの黒い髪、切れ長の目に細く上がった眉、鼻筋は通り、口角が上がった口。
「死神で口角上がった口だと?!、好きで上がってるんじゃない!、それに人間の前に立つときは意識して下げてる」
笑ったように見える顔がコンプレックスである。
この依頼は断ろう。
残り少ない寿命を買い上げても私の成績には影響はない」
ワルキューレPC、ライブチャットルーム99
入室キーが押されると同時に画面上に依頼相手の顔が映し出される。
「申し訳無いが、今回はお断らせて頂く」
「今回はって、次回はあるんですか??」
「残念ながら無い」
「お金が欲しいんです!」
「おまえの寿命は残されてない、期待にそえる金額にはならない」
「それでもかまわない!、少しでも良いんだ!」
「これで最後、ルームを閉鎖する」
「ちょ、ちょっと、待って、なら俺に残された時間は?」
ワルキューレPCのキーを操作すると、死神にしか知りえない情報がポップアップした。
「684時間」
「684時間・・・宣告された余命とほぼ一緒のひと月か、時間いくらで買い取ってくれるんですか?」
「寿命は買わないが、教えてやろう。
おまえの寿命は1時間10円、
弱った体力、そして残された寿命での換算された金額だ。
おまえの寿命は6,840円」
「俺の残された時間の値段がたったの6,840円・・・」
「時間はお金に勝ることもある。
残された時間を家族と大切に過ごせ」
PCをシャットダウンした。
パソコンに顔を伏せたモルテ
「死神の私が時間がお金に勝るなんて言葉発する必要があるかぁ?」
ワルキューレPCには問い合わせをしてきた男性の過去から現在の映像がビデオのように流れている。
モルテには過去を見ることは出来るけれど、未来を見ることは出来ない。
正直、モルテの手が入れば、痛みや苦しみからは早く逃れられる。
きっと、その男性は残りの684時間のほとんどを痛みと共に生きて行くのだと思う。
それでも、モルテは残りの時間を買わなかった。
”ぴぽぽ”
死神のパソコンからメール音がなった後、プリンターから名前の入った一覧が出てきた。
「私の担当は176人か・・・」
この一覧は寿命を全うして迎えに行く人間の一覧である。
大きな点数にはならないけれど、死神として与えられたやるべき仕事である。
一覧には名前と年齢と日付が入っている。
プリントには寿命の尽きる10日前に追加情報が記載され、毎日定時に送られてくる。
10日前に鎌を下ろせば、1,000点がモルテに入る。
当日まで待つと100点で、過ぎてしまうと減点される。
一覧は毎日送られてきて、上から残り時間の少ない順。
赤字になっているのは本日が期限で、今日鎌を下ろさなければ減点の対象になってしまう。
パソコンにモルテの名前の入ったカードを入れる。
画面上にはモルテのランクと点数が出てきた。
モルテ ランクC、11,389点
かなりの落ちこぼれである。
つづく