署名するだけの簡単なお仕事です
相変わらずの誤字脱字申し訳ありません^^;こんなのんびりした更新ですがブックマークありがとうございます!
軍の事務所で若い軍人の方々に囲まれて…質問攻めに合っていた。第二王子殿下の妃候補であった私が何故、使用人の制服を着てアイレンルーガ殿下の手伝いをしているのか…気になるよね?気持ちは分かる!
「く…詳しくはアイレンルーガ殿下にお聞きして下さい!」
ここにはいない、アイレンルーガ殿下に丸投げしてから、軍の事務所を逃げ出して建物の奥、第一執務室に駆け込んだ。
「お~籠の中の急ぎの案件の半分くらいは済んだぞ…それとこれ不備の分」
私の姿を見て、ニヤリと笑うアイレンルーガ殿下はまた仕事が早いっ!しかもロイト=ギナセ中尉が籐籠の前で書類の仕分けをして下さっている!?す、すみませんっ!
「ああ~大丈夫ですよ。後一時刻少々で第一部隊の定例会議がありますので殿下と僕は抜けますが…」
わあ会議?…殿下はやっぱり忙しいのね…
私は殿下から不備と署名の終わった書類を預かって、チェックしてからフセンを貼っていった。
「この書類は不備のものです。期日は迫っていませんが、各省に説明と返却をお願いします」
グリード=ヒルズ少佐がそう言って結構な厚みのある書類を差し出している。しかもフセンを貼っていて、訂正指示が入れてある。細かい…いや流石ですねというべきね。
私はヒルズ少佐の分の書類も受け取ってクリアファイルに挟み込んだ。
「では、返却に出て来ます」
すっかり皆のパシリ状態だが初日だし、言われた所へ行って顔を覚えてもらうのも事務官としてはアリだろう。
但し…
「……いないな?」
第一執務室を出てから不審な動きをしてしまう。先程遭遇したアレ達にまた会いたくないので、廊下の角から素早くダッシュしてアレがいないかの確認をしてから、次の角まで移動することを繰り返して、再び役人棟に戻った。
…
……
あれから…数時間…何度か役人棟を行き来していたら、すっかり日は落ちて夕方の六刻過ぎになった。一応、アイレンルーガ殿下の執務机の上だけはタワーがなんとか片付いた。ただ単に『急ぎ』『急ぎじゃない』で床に置いてある籐籠に分けただけだが…
そろそろ…王城勤めの通いの方々は帰宅の途についている時間帯だ。
城の役人棟の就業時間は大体朝9~10刻から夕方の5~6刻までくらいだ。異世界の役所も同じような勤務時間だね。ただ国民の休日は建国祭の前後一週間と年末年始の休み一ヶ月くらいが固定で決まっている休みらしい。後は週の三日出て一日休み…とかのローテーションで、特に外務省の役人や軍関係の方は急な呼び出しもあるとかで、実際はもっと休みが少ないらしい。
アイレンルーガ殿下なんてほぼ休み無いんだって……過酷だね。
という訳で共に独身で独身寮にお住まいというヒルズ少佐とギナセ中尉は先程、帰ってしまったのだが私は国王陛下に謁見している、アイレンルーガ殿下を待っている。
この執務室の惨状の原因の理由を殿下の口からお聞きしたいからだ。まあ…聞かなくても大体は分かっているけれど、念のためだ。
執務室の表扉が開いて…アイレンルーガ殿下が戻って来た。
「まだいたのか?今日はもういいぞ、初日からご苦労だった」
私は、背筋を伸ばすと微笑みを浮かべてアイレンルーガ殿下を見た。
「いえ…いつもこれくらいの時間までは政務処理を一人でしていましたので…ところで殿下、そろそろ教えて下さいませんか?アイレンルーガ殿下の元へ何故、ライフェルーガ殿下の政務書類が持ち込まれていますの?」
ちょっと嫌味っぽかったかもしれない…
アイレンルーガ殿下は私のその言葉聞いて少し苦笑いを浮かべながら
「一言で言うと…ライフェルーガはやる気が無い」
と、本当に一言で言い切った。
「…」
私が真顔でアイレンルーガ殿下を見詰めていると、アイレンルーガ殿下は表情を引き締めた。
「ライフェルーガも成人してから王子として政務をおこなうことになった。内務省の役人や事務官が付きっきりで不備や手直しを確認をしながら、なんとかな…」
なるほどね、ライフェルーガ殿下も一応は政務をこなしてはいたんだ。成人した後…という事は5年くらい前かな?因みにこの世界では13才が成人です。
最初は誰だって大人並みに仕事をこなせるかと聞かれれば、無理だ。事務官や役人の方々に手伝ってもらったって仕方ない。
アイレンルーガ殿下は大きく溜め息をついた。
「それでもサボろうとするライフェルーガは、政務書類の内容の確認すらしないで署名するだけになっていたらしい。そしてライフェルーガ付きの役人達が俺に泣きついてきた。ライフェルーガが何もかも自分達に任せて政務を覚えようともしないと…役人達は強くは出れないからな、ライフェルーガを叱って本気で怒ってくれる腹心もいない…」
王子様あるあるだね…身分が高すぎて周りに説教してくれる腹を割った友達がいない。今日から『おともだち』よ、と言って紹介された貴族子息はいただろうけれど、そんなものは私からしたら『友達』の枠にすら入っていない。
「俺自身もまだ子供だったから役人達にせっつかれて…馬鹿正直にライフェルーガに直接に説教に行ってしまったんだ。そうしたらアイツは国王妃に泣きついた。そこからは分かると思うけど、ライフェルーガの政務をアイレンルーガが全部やればいい!と国王妃が言い出して…少し前までは父上が裏から手伝ってくれていたんだが、その度に国王妃が嫌がらせしてくるし…俺もそこそこ一人で政務を回せるようになってきたから、面倒だし全部の書類決済もやるようにした」
「決済…つまりライフェルーガ殿下のご領地の運営もアイレンルーガ殿下が?」
私が驚いて目を見開くとアイレンルーガ殿下はニヤリと笑いながら、執務机の引き出しを開けて何か箱を取り出した。近付いて箱の中を覗くと…魔力を帯びた判子が入っていた。
これ…ライフェルーガ殿下の魔力…王族の聖印!あちらの世界で例えると本人しか使えない指紋認証付きの銀行印や角印みたいなものだ。
「ある意味ライフェルーガは素直だからな、政務を肩代わりする代わりに聖印を寄越せと言ったら本当に渡してきた」
「何て浅はかな…アイレンルーガ殿下に渡すとはいえ、聖印を簡単に渡してしまうなんて…」
アイレンルーガ殿下は「なぁ?俺もそう思う」と破顔した。
「俺がアイツの名を騙ってやりたい放題出来る権限を丸投げしてきたんだよね、まあ領民は我が国の大切な民だ。俺も領地の事は手は抜かないけどね…」
なるほど…これで書類タワーの原因が分かった。
「そういうことなんですね…それでこの執務室が大変なことになっていると…役人棟でも役人の皆さんに頑張れ…とか、うちの方の決済は遅らせても構わないからね…とか、温かい言葉をかけて頂けたのですが、役人の皆さんはご存じなのですね」
私が書類を揃えて、籐籠に入れるのを見ながらアイレンルーガ殿下は首を捻っている。
「いつの間にかな~多分どの部署でも一度はライフェルーガの政務怠慢のあおりを受けて、困ったことがあるんだろうな…」
さもありなん…
今頃ライフェルーガ殿下は、激しいクシャミでもしているかもしれない。
アイレンルーガ殿下は私の前に立つとエスコートするかのように手を差し出した。
「さあ…今日はこの位にしておけよ。視察や軍の演習とかが重なると泊り込むぐらい忙しいから」
「っ…!」
な、なんですってぇ?!泊まり込みなんてどこのブラック企業よ!あ、この場合はブラック王城?になるのかな?
「ま~こっちにはフローア嬢という強力な即戦力が入ってきたしな~ライフェルーガの方はマリア嬢がいるから、あの子が王子妃の政務引き継いでくれるんだろう?」
甘いっ…甘いよ?アイレンルーガ殿下…あのマリアちゃんがまともに政務なんてする訳ないよ。
あれ?……そう言えば、アイレンルーガ殿下がわざわざ制作して下さった、あの魔術契約書…『ライフェルーガ=カレシオンはフローア=ゼルベデシに関わることを禁ずる』と『マリア=プーデに関わること禁ずる』と書いたよね?私…魔術の方はあまり得意じゃないから、魔術印を全部は解読出来ないんだよね…その他の私に関する禁止事項とか書いてあったっけ?
あまりに気になったので、帰る前にアイレンルーガ殿下に聞いてみた。
「では…本日は失礼致します。殿下、つかぬ事をお伺いしますが…あの魔術誓約書の『私に関わることを禁ずる』と書いてありましたが、関わろうとするとどうなるのでしょうか?」
アイレンルーガ殿下は……めっちゃ悪人顔ドヤッの表情を浮かべながら
「あれ?フローア嬢は気が付いてないの?ふ~んだったら、起こってからのお・楽・し・み!」
いや……お楽しみって言った殿下のお顔、めっちゃカッコイイんだけど、殿下の背景にどす黒いオーラ?が見えたような気がして…寒気が来ましたわ、はい。
「お疲れ様です…お先に失礼します…」
私は何かに追われる様に執務室から走って逃げた。
スパダリと泊まり込みのタグ……はありませんが妄想タグがアップを始めました。