妄想彼氏
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確か…セリナージャ妃殿下は30代後半の年齢だったと思う。
私は自分の目の前に座る、年の割には(失礼)派手な色のドレスを着用している妃殿下を見た。
一言で言うと、派手なオバサンだなぁ…という感じだ。と言うかね、精神年齢が幼いのが滲み出ていると思うのよね。
アイレンルーガ殿下のお母様に勝手にライバル視した挙げ句、今度は結婚にまで絡んできて一般のご家庭で起こっても、とんでもない略奪婚なのに更に国が絡む王族同士の婚姻でやらかすなんてね。
そういえば、セリナージャ妃と国王陛下との婚姻には条件が付けられたって言ってたよね?セリナージャ妃はご自身が産んだ、ワイリアーリアリドル王族の血筋の御子の養育には口出ししない…と。これほど拗らせた女性なら息子の嫁にもっと絡んできてもよさそうなものなんだけど、そう言えばしつこくお茶に誘ってくることはあっても、嫌味を言ったり私を苛めたり…とかはしてないわね。
セリナージャ妃は笑顔のまま、私を見詰めながら
「あなた…アイレンルーガ殿下の事務官をしているそうね?いますぐ辞めなさい」
と、言ってきた。
言うと思った…でも大丈夫。
「国王陛下に正式に任命されて事務官になりました。確か…妃殿下には権限が無い筈、お話は国王陛下を通して下さいませ」
セリナージャ妃は…顔を歪ませた。
やっぱり…睨んだ通りだ。
婚姻の際に条件をつけられて嫁いできたとアイレンルーガ殿下から聞いた時、私がこのワイリアーリアリドル王国の王族なら…国の参謀なら、急に割り込んできた遠くの国の王女殿下の事を快く思うはずはない。きっとセリナージャ妃の自由は認めないで、公国から搾り取れるだけ搾り取ろうと思ったはず…
相手は一国の王女殿下…外交上の理由でも婚姻の打診を拒否はしにくい。だったら…
私なら、まずはセリナージャ妃からの支度金として最初は数10億は欲しい。そして毎年見舞金も欲しい。セリナージャ妃のこちらでの生活費は全てそっちで持って欲しい。そして王城の奥に引っ込んでいてもらって公の所に出て来て欲しくない…こんな条件を突きつけたいと思う。
まあ…私の女性目線な条件は実際は無いにしても、賠償金や見舞金の類は絶対に頂いているはずだ。
「おたくの娘がどーーしてもこっちに来たいというから貰ってやるんだからそれ相応のブツを用意しな!」
…こんな感じでセリナージャ妃の母国、ビアンレア公国に条件を付きつけたと思う。そこには当然、ワイリアーリアリドル王国の政務に口出しは一切しないこと、このような条件も加えられていたと推察される。
もしかしたら、ライフェルーガ殿下には王族としての一切の権限は与えないこと…とか?もあるかも。
それじゃなければ、普通では有り得ない。アイレンルーガ殿下がライフェルーガ殿下の全部の政務を引き受けていること…アイレンルーガ殿下も渋々受けているのは、ライフェルーガ殿下に本来の意味での権限が無い為に仕方なく任されている。
そして、その条件に当てはまっていないのは、両殿下の婚約者を決める時ではないかしら?
「せめて婚約者はライフェルーガの為に家柄の素晴らしい令嬢にして」
とか言って、私に決まってしまった…とか?
まあ全部が推察ばかりだけど…ね。
セリナージャ妃は憎々しげに私を睨んできた。
「あなたがしっかりしていないから、ライフェルーガがあんな令嬢に…」
とんでもない当て擦りだ…オタクの息子の不始末でしょうが。私が黙っているとセリナージャ妃は興奮してきたのか前のめりになってきた。
「あなたが…ゼルベデシ公爵家が後ろ盾になってくれれば、私だってもっと…」
「!」
私の周りに起動している魔術が、鈍く光り出した。
な、なに?
魔術の光りが私の周りを巡る。そして、肩の辺りでその光りが空中で止まって、フワフワと漂っている。
「あなた…私に向かって魔術を使っているわね…」
「え?」
セリナージャ妃が私の周りに浮かぶ光を見て目を吊り上げた。
いえ、これは勝手に発動していて私がしている訳じゃない…と言おうとした言葉は、セリナージャ妃の怒鳴り声でかき消された。
「ミストレアもダレンもこの私に恥をかかせてっ…どうせほくそ笑んでいるでしょう?!」
ええっ?!ちょっと待って?ミストレアは私の母の名前で、ダレンは私の父の名前なんだけど…ど、どういうこと?!
「馬鹿にしてっ!馬鹿にしてえぇぇ?!」
セリナージャ妃はソファに置いてあるクッションを、私に向けて投げつけてきた。勿論、クッションだし危険は無い…がクッションはヘロヘロと力なく飛んで、テーブルの上の茶器セットに激突した。
茶器がひっくり返って派手な音がした。
茶器がひっくり返ったとほぼ同時に、アイレンルーガ殿下が踏み込んで来た。
え?
「セリナージャ妃、ゼルベデシ公爵には関わらないこと…という条件をお忘れか?」
「…っ!」
アイレンルーガ殿下が私を背後に庇いながらそう言うと、セリナージャ妃は唇を噛み締めていた。そして扇子を床に投げつけると、アイレンルーガ殿下を睨みつけながら足音を響かせながら部屋を出て行った。
私はアイレンルーガ殿下の横顔を見詰めた。
「殿下…隠していること、教えては下さいませんか?」
アイレンルーガ殿下は眉根を上げると、う~んと呟いて首を傾げている。
「俺が隠していることは、盗聴魔法も使っているってことかな?発動条件はゼルベデシ公爵家という言葉」
また魔法!しかも今度は盗聴?!
「セリナージャ妃がフローア嬢に接触して、ゼルベデシ公爵のことを話に出してくるのも予測していたし」
やっぱり私を餌にしてましたね…
「ですから…どうしてセリナージャ妃が…お父様の名前とお母様の名前を呼び捨てで…」
詳しく聞こうとアイレンルーガ殿下に近付こうとしたが、アイレンルーガ殿下に手で制された。
「詳しくはご両親に聞いてみてよ?俺から勝手に言う訳に行かないし…あ、そうだ。そろそろ大規模討伐の時期なんだ。討伐地での備品管理の手配とか…兎に角、準備にいっそがしいから~暫くは泊まり込みヨロシクね!」
げえっ?!しまった…そういえば、泊まり込み云々は以前言ってたけど、本気なの?
その日の夕刻、私は公爵家に帰ると両親に聞いてみることにした。
私がセリナージャ妃が暴れた?経緯を説明すると、両親は大きく溜め息をついた。
「またやっているのね…セリナージャ様」
「懲りないな…」
私は困り顔の両親の顔を交互に見て、首を傾げながら聞いてみた。
「お父様達はセリナージャ妃のことをよくご存じなの?」
お父様は苦笑いを浮かべた。
「セリナージャ妃と私とミストレア…それにアナベラ様は…同じ魔術学園の同級生なんだ」
父にミストレアと呼ばれた母はお父様を指差した。
「ほら、前にフローアに話したことがあるでしょう?この人がセリナージャ妃が片思いしていた生徒会長よ」
「ええっ?!うそっ?!」
思わず叫んだけど、今だってお父様は渋くて格好いいおじ様だ。そりゃ10代の頃はそこに若さのキラキラが加わってさぞや素敵だったと…あれ?
「でも生徒会長ってアナベラ様に片恋をしていたって…」
私がそう言ってお父様を見ると、お父様は赤面して頭を掻いたりしている。
「それは…まあ、なんというか若い時だから憧れみたいな感じでな。周りの男子達が盛り上がったので私もアナベラ様のファンだったというか…それに私はすでにミストレアと婚約していたしね」
お父様はそう言ってお母様の顔を見た。お母様は若干据わった目でお父様を見ている。
「良い様に仰ってますけど…当時は結構本気でアナベラ様のことを好きだったのではないかと思ってますのよ?まあ…という訳でアナベラ様とセリナージャ妃との三角関係のようなものにお父様も巻き込まれていてね。アナベラ様も迷惑していたし、ダレンも最初は静観していたけれどセリナージャ妃の行動が苛烈になって来た時に…私に泣きついてきたのよ」
お父様は益々顔を赤くしている。
「それまでは若かったし表立ってミストレアを婚約者扱いしていなかったので…セリナージャ妃を追い払う為に…」
「私を盾にしようとしたのよ?全く…」
お父様とお母様の力関係の比重が母>父なことの謎がここに解明されたわ…
こういうセリナージャ事件?があったからお父様は泣きついたお母様に頭が上がらないんだ。
「セリナージャ妃に言ってあげたのよ。申し訳ないけれどダレンは私の婚約者なのよ、一国の王女殿下の火遊びの相手に差し上げることは出来ません…ってね」
お母様っ強い!
「それで…セリナージャ妃はどう言ったの?」
「騙された…婚約者がいるなんて知らなかった、酷いっ…ですって。あの方、変わってるわね~妄想でダレンとすでに付き合っているつもりだったのかしら?」
うん……お母様強いね…
次回いよいよ泊まり込み…でございます。ブクマありがとうございます^^
 




