第9話★そして、学園という名の戦場に舞い戻った
程なくして、僕は学園の中央広場にたどり着いた。
このあと僕はどうしたらいいんだろう。
とりあえずそこら辺の人に聞いてみるか。
「あのー、すみません。今日入学した一年生の者なのですが、訳あって手続きに不備があったのです。事務所などはどちらに…」
胸にバッジをつけた見知らぬ男に僕は勇気を出して声をかけた。
だが、その男の表情はみるみる不愉快なものを見るものへと変わっていった。
「ケッ、使用人の分際で俺様に話しかけるたぁいい度胸だなぁ。うっさいからあっちいけよ」
「はぁ…」
唐突であまりにも身勝手な言い分だったので、呆れてものを言い返せなかった。
他のやつだ。
「あのー、すみません…」
だが、他の男にも無視を決め込まれた。
「なんなんだ、どいつもこいつも…」
僕は使用人の辛さを身をもって実感した。
ただ肩書きが変わるだけでこれほどにも差別を受けるのか。
恐らくはあの外を出歩く多くの生徒が付けているあの紋章だ。
あれが使用人とそうでないものを区別しているのだろう。
クソ、僕はこんなことで時間を潰している場合じゃないのに…!
その時だった。
美しいブロンドの髪のウルフカット美少女が僕に声をかけてきたのは。
「ねーねー。きみ、お困り?」
彼女は十年来の友人かのようなフランクさで僕に話しかける。
…彼女の胸には、やはりというか、紋章が光り輝いている。
今日が入試だからか、制服ではないが。
「ああ、とてもお困りだよ。だからこれは慈善事業になってしまうのだけれど、お嬢様、僕を助けてくれませんか」
「うん! いーよ! どうすればいいかなぁ?」
まさかの二つ返事で快諾。
こんなご時世で人に優しくできる彼女は眩しかった。
羨ましいとすら感じた。
僕はその彼女の気高さに、敬意を払った。
…だが、あんなことがあったあとなのだ。
彼女が残忍な人にはとても見えないが、一応警戒はしておこう。
あんな惨めな思いは、二度とごめんだ。
なのにこうして人と接してしまうあたり、自分は自分だな、と愚かしさと安心を感じるのだった。
───僕は彼女にあの事件を伏せて、はぐれた使用人がどこへ向かえばいいかを聞いた。
伏せた理由は、三つある。
ひとつめは、僕が惨めだから。
ふたつめは、彼女を巻き込みたくないから。
みっつめは、僕の能力に関して詮索されたくないからだ。
「うーん、それなら任せて!」
「なんだ、アテはあるのか」
お転婆な印象を与える彼女だが、実はしっかり者なのかもしれない。
僕の中で、彼女の評価が1段階上がった。
「ないけど、困った時は感情と直感で!」
あかん。
出会ったばかりの人にこんな事言うのも失礼だが、多分こいつ馬鹿だ。
僕の中で、彼女の評価が1段階下がった。
「ああ、そういう…」
「むかー! 今わたしのこと馬鹿にしたでしょー。まあ見ててよ。これがわたしの『スキル』なんだから!」
そういうと、彼女は空を見上げ、そして静かに目を瞑る。
「ふむ…」
その状態がしばらく続いた後、突如彼女からオーラのようなものが広がる。
「んー! 見えた! こっちだよ、ついてきて!」
「あ、おい。ちょっと待ってくれよ」
彼女は一目散にかけていく。
僕は彼女の後を追った。