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第86話 そして、門出の時を迎えた

 波乱の学園祭が幕を閉じると、僕たちはあっという間に卒業までの一年を面白おかしく過ごしてしまった。


 何せ去年の学園祭があれほどの大事件になってしまったため、今年は様子見で特例として中止になったのだ。


 あの事件から数ヶ月、二学期に入る前にクラス判別がもう一度行われた。


 その際に僕、リカンツちゃん、エル、エリカ、クロエ、そして使用人としてツモイ、アル、アベルはSクラスへ昇格、あとはまあなあなあで学園生活を過ごした。


 毎晩リカンツちゃんと抱き合い、時折ツモイが乱入し、放課後にはエリカやエルたちと合流して冒険をする充実した毎日。


 そんな日々も、今日で終わり。



「うぅ。先生はお前たちが誇らしい。Eクラスからこんな立派になって……!」


 ヤライ先生は号泣しながら卒業式後のSクラスの教室での演説を終える。


 僕たちは終始ヤライ先生を茶化していたが、クロエだけは共鳴して号泣していた。


 死神デスシーンが離れたクロエはすっかり別人と言った感じで、黒一色といった印象だった彼女の髪も、今となっては雪のように白くなり、とても落ち着いて優雅で人一倍優しい人物という印象を与える。


 彼女は本来の記憶を取り戻すと、一生懸命勉強に励んだ。


 それにしても、努力だけでSクラスにくるとはな。


「ロクトー、先生泣いてるぜ。なんとかしてやれよ」


 アベルは僕になんも考えてなさそうなセリフを吐く。


「たまにはいいんじゃないのか、あんな顔をぐしゃぐしゃにしたヤライ先生を見れるのは今日が最初で最後なんだぜ」


 僕もまた同じような軽口で返す。


「もー、レディに大して失礼なんだから。はい先生、私のハンカチ使って」


 エリカは僕とアベルに対して『ちょっと男子』と委員長な感じで僕たちをたしなめる。


 今となってはエリカも委員長キャラが板についたなぁ。


 最も、これが見納めなのが寂しいが。


「お兄ちゃん、これからもよろしくね!」


「師匠、私も今後ともご指導、ご鞭撻よろしくお願いします」


 そう言うエルとツモイは卒業後も僕の使用人のままだ。


 なんでも主人となって卒業したものは、学園側から未開拓地を与えられ、使用人を使ってその地を開拓していくのが通例であるという。


 この制度のために多くのものが学園に挑み、隷属し、命を落としてきた。



 これからは彼女たちと新天地を目指すのが今後の目的になるのだが、僕らに限ればそれと並行して例外的な大仕事が待っている。


「わたしも、ちゃんとお仕事頑張るからね」


 そう僕に告げるのはエルの姉、アルだ。


 今となっては紆余曲折あり僕の使用人、敬語が解けてフランクになった僕の姉だ。


 エルの妹と同じ方式。


「ああ、アル。お前もこれからもよろしくな」


 アルは頭をうんうんと縦に振る。



 時に、リカンツちゃんはぼうっと僕を見つめていた。


「なんだか不思議だね、突然こんなことになるなんて」


 ああ、本当に。


 僕だけならまだしも、まさか本当にツモイまで現人神だったなんて思わなかったな。



 僕たちに課せられた使命、それは収穫の刻を逃れることだ。


 神は2人以上存命していれば収穫の刻と呼ばれる世界の終焉はやってこないらしい。


 つまりツモイと僕が生きている限り、世界は安泰なのだ。



 収穫の刻には、人間の魂が刈り尽くされて神の供物となり、神の力で転生、新たな生を得るらしいが……。


 当然死にたくない僕たちは神に抗う。


 原初の神ブラネウスという大層な名前からペディの呼び方に戻った僕の相棒は、まあ神の支配の時代が終わってもまあいいんじゃあないですかと神らしからぬ発言をしておられるし、特に問題はない。



「しかし、俺の作戦がこうもうまく行くとはなぁ」


 アベルが呆れたような表情をしている。


 本来世界を破壊する役割を持つ悪魔の王子として転生したアベルは自らの意思で神の時代を終わらせようとして僕たちを保護しようとあの手この手で頑張っていた、とは本人の弁だ。


 実際どうなのかは知らないが、まあある程度は信じてやってもいいのかな。


「言うは易しってよく言うよな」


 なぜだか少ししてやったり顔をしていたアベルに向かって僕は言葉の刃を突き立てる。


「そんな事言うなよロクト。実際世界の真実を知ってたのは俺くらいなんだが、死神事件の時みたいな特例がない限りネタバレするとそこのブラネウス様に即殺されるんだぜ。どれだけ気苦労したか……」


 げ、そうなのペディ。


(いやー、知らないですねー。ほら私、原初の神ですし? 強すぎてちょっとした手違いもあるかもしれませんが)


 あ、誤魔化した……。


 

 そうこうしていると、ついに魔導船が到着する。


 教室からも覗ける、とてつもなく大きく華美な魔導船だ。


「先生、今まで本当にありがとう」


 僕たちは再びヤライ先生に頭を下げる。



「ずびっ、ずびっ。あ、ああ。元気でなぁ。たまには手紙を寄越せよ……!」


 先生は泣きじゃくって、とうとう本当に表現しがたい顔になってしまった。


 ヤライ先生、こんなキャラだとは思わなかったよ……。



「じゃあみんな、約束通りあの言葉で締めようか」


 僕たちは踏み出す。



 もう戻ることは許されない大きな一歩。



『ヤライ先生、お世話になりました!』



 これで最後。



 僕たちは振り向かない。


 もう二度とヤライ先生の顔を見ることはない。



 だけれど進むのだ。



 ありがとう、ヤライ先生。


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