第85話★追放剣士の改変無双
力が全身を迸る。
溢れる力、力、力。
「待たせたな。お前は僕を殺して次の絶対神の座を狙ってるってことでいいんだよな、クロエ」
僕は眼前の敵に問う。
「いえ、あの者はもはやクロエ様ではございません。あれなるはデスシーン。あの神に完全に身体を支配されています」
僕の質問を神ブラネウスが補足する。
なるほど、普段から彼女に近づいた時に感じるざわついた感触は、死神の神気だったらしい。
「ええそうよ、ロクト。どんな手を使ってでも貴方の息の根を止めるわ。そして次はもっと死の溢れる暗黒の世界を創造するの。そしたらあぁ、なんて素晴らしい魂ができあがるのかしら。はやく食べてみたくてたまらないわ」
うっとりと惚けた表情で語るデスシーン。
殺して殺して、魂を刈って食す。
そんな所業を聞いて、現人神である僕は怒りで気分を害してしまう。
「もういい。喋るなよ、デスシーン。無粋だぜ」
「あらそう、ではまずはそのお邪魔な口を削いであげようかしら!」
デスシーンがやってくる。
一瞬だ。
一瞬にして僕の背後をデスシーンは取る。
「死んで頂戴!」
死神の鎌が振り下ろされる。
僕はそれを聖剣で防ぐ。
「はああ!」
そのまま弾くと、死神は後退する。
「なぜ、どうして死なないの。この鎌は防いでも生命を刈り取る。とっくに貴方は死んでるはずよ!」
後退したのもつかの間、すぐにデスシーンは体勢を建て直し何度も鎌を振る。
だが、僕は死なない。
「当たり前だ、たった今死んだことをなかったことにした」
今の僕のジョブ、創造士のスキル。
このスキルはこの世界の法則を書き換えるだけでなく、新たに創造することもできる。
僕が空は赤いと言えば赤くなるし、死なないと言えば死ななくなる。
もう何人も僕を殺すことは叶わない。
「死ね! 死ね! 死ね!」
確かに素晴らしい攻撃だ。
これを防げるものは世界中探してもそういない。
だが、相手が悪かったな。
「もう終わりか、次は僕の番だ」
デスシーン、お前はここに来い。
「な……。ロクトの攻撃の間合いに私が瞬間移動した!?」
僕は能力でデスシーンを引き寄せてそのまま顔を掴むと、地面に叩きつける。
「ぐがぁっ!」
そのまま地面に引きずってから宙に放り、続けて斬撃を送った。
「そんな、こんなはずではないのに! たった一撃で!」
こいつは僕を殺すため、たくさんの汚い手を使い、人の心を弄んだ。
もう終わりにしよう。
「もう喋るな」
ついにデスシーンの身体を斬撃が切り裂く。
「あ、あがああああああ!」
──空が晴れ渡る──
闇は消え去り、空から真っ白な少女が舞い降りた。
それはやせ細っていて、儚さで僕の胸をいっぱいにした。
そうか、こんな少女が……。
デスシーンが依代にしていた少女はか細く、戦いという言葉から最も遠い存在であるように感じた。
もう終わったんだよと僕は呟く。
これで僕を取り巻く陰謀は全て片付いたはずだ。
これが1つの長編の物語だったなら、これにて僕の物語は閉幕だ。
──長い、長い戦いだった。
この駆け抜けた半年と少し、僕は地獄の苦しみを味わった。
けれど、そんな苦しみを超える楽しいことがいくつもあったのだ。
仲間と出会い、許嫁のリカンツちゃんとも再会できた。
ああ、走ったなぁ。
僕の斬撃は雲を切り裂き、太陽は燦々と眩しく、虹がかかる。
その美しさに、僕とリカンツちゃんはそれを見上げる。
最後に一つだけ、言い忘れていたことがあった。
「リカンツちゃん、好きだ。僕と結婚してくれ」
彼女は僕の許嫁ではない。
だが、誰が許すとか許さないとか、そんなことは関係ない。
今ここにあるのは、僕とリカンツちゃんという漠然とした人である。
僕の戦いを最初から最後まで見届けた元許嫁は、にっこりと微笑み僕に寄り添う。
「はい、よろこんで……!」
良かった。
僕はこの告白が失敗したら、取り返しのつかないダサさであった。
僕は胸を一撫でする。
これにて僕の物語は一旦終わり。
続きを綴るとしたら、まあ。
──うん、きっと平和なラブコメがいい。
本日はあと何回か更新します、今日で最終回です