第82話 そして、神は降臨した
「これで二度目。貴方も予感してたんじゃないかしら、次に言葉を交わす時は、殺し合いの中だって」
クロエの凛としたその凍えるような声音に、魂が凍てつく。
──僕は時々考えていた。
前々から思っていたのだが、僕を嵌めたあの日の登場人物は丁度一人足りなかったのだ。
アルを嵌めてシュトリの使用人にした何者かがいたはずなのだ。
それに、野外演習においてもあのぼろぼろの状態だったアレクシアが最終日まで残っていたことも疑問が残るし、今思えばあの演習の時アベルは本当にアレクシアに負けたのかも怪しい。
この一つだけピースの欠けたパズルを埋める人物が誰か。
その答えは、クロエだ。
「ああ、だけれど最後に一言だけ質問させて欲しい。どうして僕を狙うんだ」
その言葉を聞いてくすくすとクロエは嗤う。
「やっぱり何も知らないのね、ではその説明を聞かせてあげようかしら。お節介好きのブラネウス様、出番ではなくて?」
「ああ、そういうことか。じゃあ聞かせてくれよ、ブラネウス」
神話の時代よりも前の時代、最初に生まれた神は天地を創造した。
その原初の神の名はブラネウス、創造を司る神。
時に、僕の叡智の囁きだと名乗ったペディだが、何度見ても僕のスキル説明に声が聞こえるという効果はない。
僕はペディが初めからスキルだとは思っていなかった。
ペディは正体を伏せたということは、つまり明かすタイミングが来てないということだと僕は解釈していた。
そして今こそお前の正体を明かす時だろう、原初の神ブラネウス……!
「──はい、私は原初の神ブラネウスです。創造神をやってました。どこから説明しましょうか」
僕の正面に真っ白な雪のような、リカンツちゃんを想起させる半透明の少女が創造神を名乗り姿を現す。
「やはり貴方だったのね、早速だけど殺すわ。マオ!」
「はい、我が君。く、うおおおおおおおおぁぉああ!」
クロエがそう叫ぶと、生徒会メンバーの一人だったマオが闘技場へとどこからともなく姿を現、みるみる生気を吸い取られていき絶命する。
あまりのグロテスクな現象に、僕たちはあとじさる。
男が完全に干からびると、一本の大きな鎌へと変貌する。
「私の権能は生命、豊穣。その名を死神。私の神器魂を刈り取る鎌に命を与えて愚かな信者を観察して楽しんでいたのだけれど、まあ楽しいものではなかったわね」
クロエはニヤリと笑う。
いや、違うな。
彼女はもう既にクロエではない。
「死神デスシーン、貴方は転生体の肉体を侵す禁忌、神の盟約を破りました。よってこれから誅罰を下します」
ブラネウスは殺意が込められた眼光でクロエを見つめる。
「やれるものならやってみなさい。ああ、何周ぶりかしら。神の殺し合いは。次の収穫の刻には私こそが死の国を作るのよ! 創造神の貴方様であろうと成しえない暗黒の時代を!」
「いい心がけです、野心を絶やさないのは立派なことですよ、デスシーン。ですが、今のお前に世界をやるわけにはいきません」
僕は神を名乗るデスシーンとブラネウスの会話について行くことができなかった。
なんだ、収穫の刻? 何が起こっているんだ。
「ロクト様には見せなければならないでしょう、私たち神の歴史を」
ブラネウスの言葉を理解した瞬間、僕の頭の中が破裂しそうなほどの質量を持った情報が流れ込み出す。
「う、うっ……なんだ……これは」
それを境に意識がふわりと飛ぶ。