第8話★──覚醒──
「がはっ」
突如背中から熱い何かが込み上げてくるのを感じる。
な、なんだ───これ。
腹からナイフが突き出して…いる?
「く。く、くく。くはは…あはははははははははははははは!」
その時、シュトリの笑い声が響き渡る。
「シュトリ…これは…」
「はは…あーっはっはっは。分からないのか? お前はな、俺たちに騙されたんだよ!」
シュトリは言い放つと、同時にナイフを腹から抜いて僕を蹴り飛ばす。
その後、アレクシアはシュトリの指示でどこかへと消えていく。
「どうして…。真の仲間だって…。信じてたのに…!」
先程のナイフに毒が塗られていたのか、だんだん呂律が回らなくなってきた。
「面白いこと言うじゃないか、お前。俺はな、そういうお前みたいな間抜けが大嫌いなんだよ!」
何度も何度も僕の顔を蹴りつけるシュトリ。
フードの少女も、ただ立ってみているだけだ。
これはもう、仲間にする行為ではない。
そうか、僕は確かに騙されたのだ。
「なるほど、彼ですか」
見知らぬ眼鏡の男がこの場に現れる。
どうやらアレクシアが連れてきたようだ。
「ええ、そうです。彼はあたしたちに大迷宮を利用した脱走計画を申し立てました。ですが、我々の目に曇りはございません。このようにして、捕らえた次第でございます」
それは虚偽の報告だ。
本当はそいつらがそうやって『真の仲間』という甘い言葉を使って声をかけて僕を陥れたんだ。
「ふざ…ける…。あぐ…」
クソ、こんな時に限って本格的に呂律が回らなくなってきた。
「ふむ、そしてそこの落第者の君は…。どこかで見覚えがあるような」
謎の眼鏡はシュトリを見据える。
「お初にお目にかかります。シュトリ=エクシアです。この度はお騒がせして申し訳ございません。しかし、今回の密告に免じてお許しいただければ」
「っ…! そうですか。貴方が会長、アリエル=エクシア様の弟。であれば、もはや疑いの余地もなし。よってこの場生徒会役員であるこの私、マオが裁きましょう」
マオと名乗った眼鏡の男は高らかに続ける。
「そこのロクトなる生徒は減点1000万点。その他、今回の、事件を未然に防いだ君たちには500万点を差し上げましょう」
なんだ、点数って…?
「ありがとうございます、マオ様」
シュトリは深々と頭を下げる。
すると、一見して分かる複雑な魔術がマオによって編み込まれ、僕たち全員に付与された。
「ねえ、本当に学園ではこのポイントで何でも買えるんでしょうね」
アレクシアはシュトリを問いただしている。
「ああ、本当だ。500万もあれば使用人生活からは開放されるし、むしろお釣りが来るだろう」
「…そう」
そうか、彼らはそのポイント欲しさに僕を嵌めたんだ。
「私の干渉はこれくらいにしておきましょうか。さて、精進しなさい。ロクト」
そう言い残し、マオはその場を立ち去る。
やけにあっさりだ、罪人を見る目をしていたくせに、僕を牢獄に閉じ込めたりしないのか。
それにしても、シュトリたち、僕を嵌めたことは決して許さない。
「(バーカ)」
声には出さず、シュトリは僕にその言葉を送る。
絶対だ、僕はこいつらに復讐してやる。
領地を追放され、仲間には裏切られ、僕の手にはもはや何も残されてはいない。
だが、僕の魂に焼き付いて離れない黒々とした轟々と燃え盛る何かが、僕を突き動かす。
この日、僕は復讐の鬼と化した。
僕の命全てを費やして、仇なす全てを燃やし尽くすまでだ。
*
しかし、誰もいなくなり、身体も一向に動かない。
思い返せば、使用人を決める会は僕が出てすぐに執り行われる予定だったようだし、もう僕が組む相手はいないのかもしれない。
その場合、落第者はどうなるのだろう。
僕は恐ろしい想像をする。
幸いなことに、刺された傷は致命傷にはなっていないらしい。
……本当に不幸中の幸いだ。
まずは毒が回って動かない身体をどうにかしなければ。
「ペディ。何とかならないか」
(運動を阻害する物質を無害に変更することを推奨します)
なんだ、初めからペディを当てにするべきだったな。
「何でもいい。とりあえず楽にしてくれないか」
(安楽死、というやつですか)
なっ…。
「お、おま…!?」
(冗談です。ペディジョークですよ、ペディジョーク。なはは)
こいつも冗談言うんだな…。大分きついジョークだが。
「…。じゃあ僕の身体能力強化とか、そういうためになるやつに変換してくれよ」
(では、経験値に変換します。物質変更プロトコルを起動)
すると、みるみる身体が楽になっていくのを感じる。
(パッパラー! レベルアップ! おめでとうございます、ジョブレベルが4になりました。ステータスの詳細を開示しますか?)
突如アナウンスが脳内に響く。
あれ、3をすっ飛ばしてるな。
「なあペディ。レベル3はどこに行ったんだ?」
(一度のレベルアップでジョブレベルが4まで上がったという話です。それほどに毒の無効化は大仕事でした)
なるほどな。
「オーケー。とりあえずステータスを見てもいいか?」
(もちろんでございます)
ロクト
種族:人間
ジョブ:改造士
ジョブレベル4
型:大器晩成
LV.19
HP:430
MP:308
魔力:114
力:127
知力:183
防御力:95
魅力:199
素早さ:44
運:406
成長率
HP:B
MP:C
魔力:C
力:C+
知力:A
防御力:D
魅力:A
素早さ:E
運:SS
スキル
*剣術ALv.1
確かな剣術の持ち主。剣を握れば戦い方を自ずと理解できる。一個師団相当の戦力に匹敵する剣術スキル。
*大賢者の加護Lv.9
他者から付与された後天的パッシブスキル。本来使用できない魔術の使用を可能にし、体内の専用の回路を通すことで通常の魔法より展開を速める。
*名前をつけるLv.3
対象に名前をつけて編集リストに保存する。名前をつけられた対象は常に座標が表示され、性格、容姿、装備品、アジェンダ(行動優先順位)などを書き換えることができるようになる(ロックされた項目をアンロックするには、ジョブレベルをあげる必要がある)。Lv.3の最大リスト登録数は20件。
*叡智の囁きLv.EX
改造士の複雑な能力の仕様を即座に理解できる。
可能な範囲でスキルの与える影響を予測することもできるが、使用者の見て聞いて感じたこと、即ち経験則の範囲に限る。
*材質変更Lv.3
視界内の対象の材質を変更可能な材質のリストから選択し、変更する。(編集リストに登録することで、いつでもどこでも変更できるようになる)複雑な材質は不可能。
*ステータス変更Lv.3
自他のステータスを変更できる。ただし、合計値が変更前値と異なっていた場合、翌日はステータスの弱体化修正が行われる。持続時間1日。
*アジェンダ変更Lv.2
対象の行動を置換、挿入、削除することができる。置換された行動を任意で記憶させるか記憶させないか選択出来る。(編集リスト対応)
*効果変更Lv.1
法則や効果を書き換えることができる。(編集リスト対応)
{編集リスト}9/20
*嫁
*バカ
*いす次郎
*デイブ
*窓
*アリん子
*指パッチンおじさん
*マッドサイエンティスト『たける』
*俺の来世(虫)
*
僕は二度見した。
いや、多分五度見くらいした。
何もかもが強すぎる。
新たに得た効果変更ははっきり言ってかなり強い効果だろう。
スキル・叡智の囁きで分かったことだが、これを使って僕が吹き飛ぶと言えば吹き飛ぶし、重力がないと言えば重力は消える。
アジェンダ変更も記憶を操作できる効果が追加されている。
これを使えば、学園の内側から変えることも簡単だろう。
他にも凄まじいものが目白押しだが…。
とにかく、僕は逃げるのをもうやめた。
この能力を隠し、ただの使用人を装い、まずはこの学園で成り上がる。
そして僕に侮蔑をくれた全てに復讐を果たすのだ。
さあ、始めようか。
追放剣士の改変無双を。
*
僕は物質変更スキルで傷を塞ぎ、もうすっかり楽になった身体を動かし、洞窟を出る。
辺りはすっかり暗くなり、僕は森に囲まれた湖のほとりに出る。
さて、帰らないとな。
シュトリの説明では、この辺には魔物も出るようなので、警戒を怠ってはならない。
学園はこの湖の先で、迂回しなければならない。
だが、それは僕でない者の場合の話だ。
「凍れ」
僕が湖に足を踏み入れると同時に、その部位を凍らせる。
こうすれば水の上ですら歩くことができる。
だが、僕の些細な失敗は、水棲の魔物の警戒を怠っていたことだ。
水面が揺らぐ。
その揺れは次第に大きくなっていく。
その時、それは水面から顔を出した。
「水棲の大蛇か。煩わしいな」
さしずめ守備の希薄な村を滅ぼせる程度のBランクといったところだろうか。
きっと僕なんかの剣でも余裕だが、ここは敢えて試し打ちと行こう。
「グオシャアアアア!」
蛇は大きな唸り声を鳴らすと、その巨体で僕に突進をしようとする。
ならば僕は、アジェンダ変更を使う。
「いいか、お前は恐怖で足がすくんで動けなくなる」
突如、蛇は動きを止める。
成功だ。
よし、次にこれだ。
水というのは、空気中の水の元となる元素が空気に触れて錆びることによって発生するらしい。
これを急速に行うと、水が生まれ、同時に巨大な爆発を引き起こす。
僕たちの世界では、これを水素爆発と呼ぶ。
物質変更。蛇の体内の空気を全て水の素、略して水素へと変換しろ。
「いいか、僕の命令には…絶対───」
「ぎ、ギギャアア!」
「───服従だ」
蛇は四散爆散。
後には塵一つ残らなかった。
学園に戻るんだ。
敢えて学園という土俵で、まずはシュトリたちに屈辱をくれてやるために。
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