第71話 そして、旧友は剣を向けた
その爽やかぶった優等生を見ると思い出す。
かつての最悪な日々のことを。
「どうだか。まさかこんなところでもう一度顔を合わせることになるとは思わなかったよ、ヴァルキュリオス」
僕はこいつを小さな頃から知っている。
従兄弟であり、ライバルであり、分家であり、正当後継者の座から外れた優等生。
僕の父とその弟、つまり叔父は非常に仲が悪かった。
その叔父から生まれたヴァルキュリオスは実技において明らかに僕なんかよりも遥かに優秀な成績を残していたにも関わらず、領主である父との確執から干されていた。
結果、彼は親衛隊という兵士として最高の栄誉を与えられたが、所詮兵士であり、参政権はない。
しかも僕の父、つまり現領主の親衛隊としての任は叔父側につくヴァルキュリオスにとって最大の皮肉であり屈辱であった。
さらにその後、父は実の弟を死刑に処している。
罪状は何だったか、もう覚えてはいない。
この経緯を僕は知っていたから、僕の父を憎む気持ちは分かる。
「すまない、君たちが学園にいるこのチャンスを逃すわけにはいかないんだ。君とその妹には必ずここで死んでもらう。今のブラン家は腐っている! 後継者さえいなくなれば、僕が時期当主だ。そして僕とバロン先生でブラン家を創り変えてみせる!」
ああ、これだ。
この真面目で一心不乱でどこまでも清々しく突っ走っていけるこいつが昔から嫌いだった。
「は、はは……。はははははは! 創り変える? この僕を倒して? 片腹痛いぜヴァルキュリオス。何せ僕はもう家を追放されたんだ。知らなかったのか?」
「な、なんだと……!? それじゃまるで、君が被害者みたいじゃないか……!」
ヴァルキュリオスは目に見えて動揺を隠せないでいる。
なんだ、そんなことも知らなかったのか。
「そうだ、僕を倒したくらいじゃ僕の親父は止まらない。つまりお前は無駄足だったんだよ」
「そん……な……僕は、……何のために……」
ついにヴァルキュリオスは剣を手放し、膝をつく。
「狼狽えるな! お前と儂で領地を治めるのだろう! ヴァルキュリオス!」
ブラン家の兵士の中でも一等ごつい鎧を見に纏った隊長クラスであろう男が叫ぶ。
「バロン先生! しかし……」
「立つのだ。立って断つのだ。ロクトはあの暴虐の王ユキノフの子だぞ。戯れ言に耳を貸すな。ただ進め、進んで断て!」
ほう、随分な言い様じゃないか、大男。
「はい、バロン先生。この身を犠牲にしてでも貴方様の目指す世界を……手にします!」
ヴァルキュリオスは再び手に剣を握り、立ち上がる。
こうなってしまえば、何を言っても無駄か。
「ツモイ、僕とリカンツちゃんで時間を稼ぐ。君はあの魔術師を止めてくれ」
「はい、師匠」
ツモイの眼は鋭く魔術師を捕える。
「わ、わたしも……がんばります!」
エルは魔導書を展開する。
「じゃあ行こう。勝って誰も死なせないから……!」
リカンツちゃんも既に魔法陣を起動している。
僕たちは臨戦態勢をとる。
「ロクト、君はここで倒す。そして君の妹も盟約に従い、君が闘技大会に不参加となり学園で死んでもらう。闘技大会に参加すれば運が良くても君か妹、どちらか一人は死ぬ。これも僕の望んだ平和のためだ、許してくれとは言わないよ。さあ、死力を尽くして来るがいい!」
「ああ、そうさせてもらおうか!」
さあ、やるぞ。