第66話★そして、僕は勝負に負けた
「今日こそ勝ちます! お兄ちゃん!」
みんなの妹、エルのその言葉を皮切りに僕と彼女の昼食メニュー対決は始まる。
「いいぜ。受けて立つよ、その勝負」
もはや恒例となりつつある四種類の魔石を当てるヒットアンドブローゲームに必要なアイテムをテーブルに並べる。
「先行は譲ってやるよ、ほら、当ててみてくれ」
僕は魔石を四つジュエリーボックスにしまうと、それをエルの前に置く。
「む〜……。どれでしょう〜……」
エルは考え込む。
さあ、どう出るか。
「お、面白そうなのやってんなあ。ヒットアンドブローか、俺も混ぜてくれよ」
そう言って学園祭の準備から抜け出してきたのは言わずと知れたSランクバカ、アベルだ。
「邪悪な人はお兄ちゃんじゃありません〜! あっちいってください〜!」
みんなの妹(アベルを除く)エルは基本的に誰にでも優しい。
ただしアベル、てめーはダメらしい。
「それ傷つくなあエルちゃそ。俺はこんなにも妹想いなのになあ」
そう言うとアベルはエルのジュエリーボックスに勝手に魔石を埋めていく。
「違います〜! ぜっっったいよこしま? なこと考えてます〜!」
エルは今にも泣き出しそうな顔をしている。
「時にエルちゃそ、君はロクトにこのゲームで勝った事ないだろ。分かるぜ、原因も解決策もな」
「ほ、本当ですか〜! 教えてください、お兄ちゃんっ」
エルの顔はぱ〜っと明るくなる。
アベルに魂売ってしまうほど悔しかったのか。
「ああ、簡単なことだ。すごーくな。一見すると答えは4の8乗。だけれどその条件は最初の一回だけ、ほらロクト、これで適切なヒントをくれよ」
何故か僕の勝負はアベルに持っていかれる。
「2HIT2BLOWだ」
「す、すごい……!」
エルは口を押さえたまま言葉を漏らす。
「なんで勝てないのかは明白、このゲーム、相手に的確なヒントを要求したら必ず5手以内に上がれるんだよ、事実ロクトは必ず5手以内に上がっていたはずだ」
その言葉とアベルの手腕にエルちゃんは驚いて固まっている。
「た、確かに…」
「だからこいつに勝てるかどうかは最初の2手で決まる。はい、これで4手目には上がりだろ」
「4手も必要ない……上がりだよ、アベル。それで正解だ」
全くアベルめ、この勝負は賭けだというのに余計なことをしてくれる。
「お、ラッキーだな」
「や、やった〜!」
エルは渾身の喜びを身体全体で表現する。
「ほら、勝負時だぜロクト」
「お前なあ……」
こいつの言う通り、このゲームは確実に5手で上がる必勝法がある。
だがそれを実行するには高度な高速計算技術が要求される。
数学が得意な僕ならともかく、こいつも暗算でやってのけるとは。
正直2手で上がるには相当な運が必要だ。
これは僕の負けだな。