第63話 そして、稽古をつけた
「さて。始めようか、ツモイ」
僕は剣を鞘から抜き、構える。
放課後、僕はついに使用可能になった特殊な魔術を使用可能にするスキル『大賢者の加護』の試し撃ちをさせてもらう条件でツモイの大会に向けた鍛錬に付き合うことにした。
「ええ。リカンツ様、合図を」
魔術に関して右に出る者がいない賢者リカンツちゃんの防護魔法がついて安全な状態での山奥の模擬戦だ。
ここなら、大賢者の加護を全開で使っても大丈夫だろう。
「オッケー。では〜、始め!」
ツモイは前に打ち合った時とは違い、パワー型からスピード型に適切な相手をかく乱する動きで詰め寄る。
「大分成長したな。ツモイ」
「ええ、あの時のような慢心はとうに捨てましたので!」
ツモイは木から木へと高速で飛び移り、僕の目が追いきれなくなる瞬間を狙っている。
まあ、実際のところもう追いきれてないんだが。
「獲った!」
ツモイの狙い澄ました一撃が僕へとやってくる。
「ここかな」
僕はとりあえず適当に剣を振る。
予想は的中し、ツモイの攻撃を防ぐことに成功する。
「な、確実に見えてはなかったはず……」
ツモイは高速で後退し、姿を隠す。
「まあ見えてなかったが、シックスセンスってやつだ」
「シックスセンス、ですか」
ツモイの姿は見えないが、ちゃんと聞こえてはいるらしいな。
「ああ、見えなかったら後は勘だ。これが結構馬鹿にならない」
勘というのは駆け引き経験や知識、技術などを凝縮して生み出される剣士の最大の武器だ。
剣が魔術を上回るには勘で差をつける他ない。
「でも今のは悪くなかったぜ。ほら、もう一回だ」
「はい……。やああ!」
鋭い一撃が僕目掛けてやってくる。
横薙ぎの一撃か、面白い。
僕はそれをあえて受ける。
「かかりましたね、師匠!」
ツモイは刀身を僕の剣に這わせるように唐竹割りを繰り出す。
次元を裂いておいてよかったな。
「な、まだ……!」
僕が空間に置いておいた次元断裂層にツモイの剣は引っ張られ、一瞬の隙ができる。
だが、ツモイは根性だけで次元断裂層を超え、僕へとなぎ払いを繰り出す。
僕はその攻撃にたまらず距離を取る。
それすら避けられると直感で理解していたのか、ツモイはさらに踏み込んで無数の斬撃をしかける。
ツモイの攻撃は完璧といっていいだろう。
よし、大賢者の加護魔法を使うか。
「劫火!」
よし、ペディから事前に聞いていた通り、巨大な炎の球が出たな。
「切れるか……。はああ!」
ツモイは斬撃を劫火に繰り出すも虚しく、炎に飲み込まれる。
「ちょっとこれは威力過剰かな」
ペディ曰く、今の僕は大賢者の加護により四大元素の強力な破壊魔法が使えるらしい。
しかし魔術を使うとものすごく力が抜けていく感じがする。
僕の魔力が少ないということだろうか、連発も難しい。
精神力が少なった時の代用手段というのが適切な使い方だろう。
とりあえず炎を止めようか。
「物質変更。炎を無害な空気に」
ツモイを包む炎は立ち消える。
「大丈夫か?」
「はい、怪我はありません。模擬戦、ありがとうございました」