第60話 そして、掴みどころがなかった
僕たちの出し物はエリカの強い要望によりメイドカフェということに決まり、僕たちは一週間後の開催に向けて急ピッチで準備を進めていくのであった。
「しかし、聞いてなかったなぁ」
どうやら今度の学園祭は生徒の出身領の貴族、つまり親やら親戚やらが学園に来るらしい。
何やら面倒事が起きそうな予感しかしない。
それはつまり僕を領地から追放した人間が僕に会いに来れるということだ。
僕が使用人でなくのうのうとやっているところなんて見られたら、父らは面白く思わないだろうなぁ。
「あら、考え事をするなとは言わないけれど、手を動かしてもらってよくて?」
口うるさく手際の悪い僕の裁縫術に文句をつける少女。
その少女の名はクロエ。
容姿端麗、すらっと伸びた手足や優雅な風格を与える背丈には、一目見てしまえば思わずため息が漏れてしまうほどの気品がある。
だから、僕は彼女が嫌いだ。
「……裁縫は苦手なんだ、文句なら僕にこの仕事を割り振ったエリカに言ってくれよ」
彼女は次々に布を縫い合わせ、ついには一着のメイド服を完成させる。
手際いいな、こいつ。
だからこそ彼女のポイントがマイナススタートっていうのがよく分からないんだが。
「これはアイスブレイクのつもりだったのだけれど、ウィットに富み過ぎてしまったかしら」
随分鋭角なアイスブレイクだよ。
「なるほどな。ただこんなことをいきなり言うのもなんだけれど。正直僕はクロエさんに対して苦手意識がある。だからまあ、互いに不干渉でもいいんじゃないか? 実際のところ、僕のことに関心があるようには思えないし」
それに対してクロエさんは首を横に振る。
「いいえ、ミジンコほどの関心はあるわ。ではこうしましょう、これが最初で最後の与太話。最後だったら一回くらい話して知っておいてもバチは当たらないんじゃない?」
彼女はこれが最後だと断言する。
「意外だよ、てっきりクロエさんは僕に対して一切関心を持ってないと思ってた」
「実際はただ嫌いなだけね」
一体どこからどこまでアイスブレイクなんだ。
はあ、掴みどころがない……苦手だ。