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第6話 そして、僕たち『真の仲間』は集った

それから、試験は続いた。


 僕を含めた不合格者は少し外れた広場に立たされ、合格者は校舎へと案内されていった。



 試験官などの学校関係者と思われる者は誰もおらず、僕たち落第者は野ざらしにされていると言った表現がもっともしっくりくる。


 そして思ったこと。


 落第者のほとんどの顔が絶望に染まっている。



 だが、そんな絶望の中で集まって話し合いを始めているグループができていた。


 一人は細身であるが決して弱々しい印象を与えない端正な顔立ちの漆黒の髪の少年。


 その隣には先程隣の列で試験に落ちた紅い紫、京藤色の髪の少女と、フードを深々と被り顔が見えない人物が立っている。


 フードで顔が見えないとは言ったが、かなり華奢で小柄なので、おそらく少女だ。



 そんな解析をしていると、顔を見すぎたのか例の少年が僕の方に寄ってくる。


「なあ、そこの君。ちょっといいか」


 少年は僕に声をかける。


 なら、こちらもくだけた口調で返すべきだ。


「ああ、いいぜ。ちょうど退屈してたんだ。僕はロクト、よろしくな」


「ありがとう。俺はシュトリ、こっちは…」


 シュトリと名乗る好青年は先程叫んでいた少女の方を向く。


「アリシアナ。そう呼んで」


 アリシアナと名乗った少女は、一目で分かるほど瞳に野心の火を灯していた。


 いいじゃないか、絶望の中でも希望や野望を捨てきれない、素敵な人だと思った。



「ああ、よろしくな、アリシアナ」



「そして最後に彼女。彼女は…」


 最後にみなの視線がフードの少女に集まる。


「…」


 だが、一向に喋らない。


「彼女についてはおいおい。今は計画の話をしたい」


 フードの彼女に関しては後でも良いだろう。


 この学園は五大陸中から人が集められているのだし、種族や家の問題だったり能力の都合上、顔を隠す他ない人もいるだろうし。



「ああ、いいよ。それよりも計画って?」


 僕が彼女よりも気になったのは、そっちだった。


「──学園脱出計画」


 少年の口からそれが伝えられる。


 それほどにも使用人(コンパニオン)としての務めは苦なのだろう。


 基本学園に行かないという剣聖の家系である僕は学園について全く知らない。


 なので、僕は今後僕もなるはずの使用人としての務めについて強く興味を持った。



「…分からないな。それほどに使用人としての務めは辛いのか」


「あんたね、世間知らずにも程があってよ」


 アレクシアは顔を真っ赤にして、憤慨の態度で僕にけしかける。



「ごめん。でも教えて欲しいんだ」


「…はぁ。あたしの姉はね、とても優しかったのよ」


───彼女は続けた。


 聞けば、誰よりも優しく、笑顔の絶えない美しい姉が、学園に来て使用人として務め、陵辱の限りを尽くされ、帰ってきた頃には何も喋らず、動じず、身体が触れれば顔が怯えで染まり、『ごめんなさい』とだけ呟く人形のようになってしまったらしい。


「───そして姉はそれを最後に、二度と家には帰ってこなかったわ。ご清聴ありがとう。どう? 少しは気が変わったかしら」


 「そうか…」


 彼女の話に、つい心を痛めてしまった。


 なるほど、使用人を忌避するのは納得できる。



「だから俺達はここを出るんだ。そしたら大陸の外を見に行こう。そこでは未知の冒険があって、強敵に力を合わせて立ち向かう。夜になったら野営して、一緒に飯を食べて、星を数えるんだ。だから、そう───」



 僕は思い耽る。


 いつかこの世界を旅して回ってみたいと思ったことはある。


 だが、僕には貴族としての務めがあり、旅する仲間もいなかった。


 一人では、決してこんな発想は出てこなかっただろう。


 思うに、僕はぼっちだったのだ。



 シュトリは続ける。


「ここに集った俺たちは『真の仲間』だ。一緒に世界の果てを見に行こう」



 真の仲間。


 それは僕が心の中で、ずっと願っていたことなのかもしれない。


「ああ、いいね」


 僕はその誘いを受けた。


 元許嫁のリカンツのことは少し心残りではあるが、また会えただけでも十分奇跡だろう。


 彼女は試験に合格したのだ、きっと華やかな生活を送ってくれる、そう信じたい。



「なら、さっさと場所を変えよう。もう時期合格者が戻って使用者ドラフトが始まる。逃げるなら今しかないんだ」


「ああ、そうするか」


 こうして、真の仲間である僕たち4人は、この場を抜け出した。

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