第55話 そして、内通者を得た
「おい、大丈夫かよ。見たところ怪我はないみたいだけれど」
僕はSランクダンジョンで見つけた丸腰同然の男たちに声をかける。
見ると、全員奴隷紋を胸に刻んでいる。
くそ、胸糞悪い話だ。
おそらくこいつらは誰かしらの使用人で、当人はのんきにお茶でもしながら使用人たちがダンジョンをクリアするのを待っているという筋書きだろう。
ああ、気分が悪い。
「俺の傷……お前、何をやったんだ」
男は震える手を僕に伸ばす。
……これは肉体的というより精神的、つまり怯えによる震えだ。
まあ無理もないだろう、仲間も自分も死にかけるほどの事件が起きていたのだから。
「さあ、何が何やら。お前たちのスキルじゃないのか?」
僕はスキルのタネがバレないように適当に誤魔化す。
「……ふん、まあいいさ。どうせ俺たちはシュトリ様のおかげでもう直に死ぬんだ、どっちでも良かったな」
今、確かにシュトリと言ったな。
こいつらは使える。
「そんなの、やめてしまえばいいんじゃないか?」
僕の提案に心底呆れたような表情になるシュトリの使用人。
「おいおい、奴隷紋を知らないのかよ……おい、なんだよこれ」
男の胸元の奴隷紋は消え、新たに模様が組み上げられていく。
「その奴隷紋はフェイクだ。今僕が作った、仲間の分もな。なあ、シュトリに目にもの見せてやりたいと思わないか?」
男はやれやれと頷く。
「気に入った。お前の提案に乗ってやるよ。名前を教えてくれないか?」
話の分かるやつのようで助かる。
「僕はロクト。リカンツファミリーのただの使用人だよ」
「ロクトか。リカンツファミリー、知ってるぜ。EクラスにしてAまでのダンジョンを舐めるように最速踏破していくファミリーがあるってな。そうか、お前たちが……」
男の視線は僕の背後に控えるリカンツちゃんに向かう。
「まあ正確には僕とリカンツちゃん以外のメンバーはリカンツファミリーではないんだけどな」
「驚いたな。噂には聞いていたが、本当に二人だったとは。ひとまずありがとうと言っておくよ」
とにかくこれで条件は整った。
ああ、シュトリに会える日が楽しみになってきたな。