第54話★そして、悪魔に魂を捧げた
「くっ! キリがねぇ!」
俺たちシュトリ使用人御一行は最大のピンチを迎えていた。
「モンスターハウス……。先輩だけは逃げてくださいよ」
Sランクの魔物が一斉に押し寄せる。
キメラ、ゴライアス、エンシェントボア、ワイバーン、ユニコーン。
それが何十体だ?
ワイバーン一体倒せただけでも奇跡だって言うのに、全く。
「ぐあああっ!!」
仲間の一人がワイバーンに腹を食い破られる。
あいつはもうダメだ、血が止まらない。
だけど、そんなことはもはや俺が撤退する動機にはならなかった。
「俺の後輩によくも!」
既にこの身は怒りで燃え滾っていた。
俺は上級魔法の氷の槍をワイバーンに突きつける。
後輩を攻撃していたからか、奇跡的にもワイバーンの鱗の硬い部分を避けて心臓を貫いた。
「は……はぁ……。まだだ、うおおおおお!」
俺は回路が焼ききれるまで、魔術を行使する。
まだだ、まだ俺たちは辿り着いていない!
「かはっ!」
だが、現実は残酷だった。
俺の肺にユニコーンの角が穴を開ける。
熱い何かが全身を駆け巡る。
ああ、痛い痛い痛い痛い──!
その時、ふと思ったのだ。
誰か助けてはくれないか。
こいつらだけでもいい、この絶望の底から這い上がるか細い糸でも何でもいい。
誰か、誰か──!
「誰かぁ……。助けてくれぇ!!」
これが最期の呼吸だ。
この言葉を最後に、俺は絶命する。
──俺の幸運なところは、こういった願いがやたら通じることだろうか。
「精霊召喚、微精霊:炎」
優しい少女の声に応えるように突如現れた小さな炎の精霊が敵陣を駆け抜けると、一瞬でほとんどの敵が骨も残さず灰と化す。
「アベル!」
明るい少女の声が響く。
「言われなくても、俺に……任せときなぁっ!」
立て続けに現れた男は両手に握りしめた古代兵器から魔弾を連射する。
一撃一撃が殺意を持ち、確実に魔物の眉間を撃ち抜いていく。
「ちっ……リロードのタイミングをしくじったか」
だが、その男にワイバーンが接近する。
「天誅……!」
そのワイバーンは漆黒の赤眼女剣士により一刀二斬、綺麗に四等分された肉塊と化す。
「いいか──僕の命令は、絶対……服従だ。死ね!」
銀髪の剣を持った男が叫ぶと残った魔物たちは自分の持てる全てを使って自殺していく。
そう、一瞬にしてモンスターの大群は足元に転がる骸となったのだ。
俺の脳裏にははっきりと焼き付いた。
助けられた嬉しさではない。
恐怖だ。
恐ろしい。
魔物よりも遥かに優れた殺しの技に、俺の魂には確かな恐怖が刻まれた。
「おい、大丈夫かよ。見たところ怪我はないみたいだけれど」
銀髪の男は俺に寄って呟く。
大丈夫な訳があるか。
こうして俺の胸元には穴が……。
穴がない。
見ると、後輩たちも傷一つ付いてなかった。
何が起こっている。
一体、こいつらは何なんだ。
俺はその得体の知れない寒さに、身を凍らせた。
だがその理不尽なまでの暴力は、俺たちのこの境遇すらも変えてくれそうな、一筋の光に思えてならなかった。
願わくば、この悪魔に魂を捧げてみたい。
何かが、何かが変わりそうな気がしたのだ。
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