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第46話★そして、生まれ変わった

 最高速度を保ったままに全体重の全てを剣先に集め、今一条の光となる。


「八岐流奥義、烈一閃牙突(れついっせんがとつ)!」


 これが私の今放てる究極の一。


「よい! よい目をするようになったわい。ならわしもそれに応えるだけである!……」


 父は縦に刀を構え、そのまま振り下ろす。


「——草薙大一文字くさなぎおおいちもんじ、であるッ!」


 再び刀と刀はぶつかる。


 だが、先ほどの挨拶とは訳が違う。


 剣士と剣士の本気の衝突、即ち只の殺し合い。


「くっ……。これでも届かないか……」


 じりじりと押されていく。


 勢いを失った私の剣は徐々に押しつぶされていく。



 これから私の身体を切り裂くのがこのような究極の一太刀であれば悔いはない。


 だけれど最期に思うことが一つだけ。


 許されざる願いがたった一つだけこの胸にあった。


「その一太刀は……私が振るいたかった」


 ついに私は剣の道を極めることがなかった。


 たったそれだけの話だというのに、それだけの話が頭の裏に焼き付いて離れない。


「(ならば刀を握れ! 手放すなど笑止!)」


 その時、脳内に声が響いた。


「誰だ……。お前は……誰だ!」


「(愚問である! そんなことより貴様は剣の道を歩むのか、死にゆく安寧の道を選ぶのか、答えよ!)」



 その脳内を真っ白に塗り替えていく問いを聞いた時、身体はすでに行動を起こしていた。


「ええ。まだ。まだ死にゆくには勿体ない(・・・・)!」


 私はとっくに折れた無銘の鉄切れを振り切る。


「な、なんじゃ!」


 父は異様な光景に驚きを隠せないでいた。


 それもそのはず、もうすでに私の刀は消滅しているのだから。


「やあああああああああ!」


 父の剣と鍔迫り合う灼熱の温度は刃となり、父上の天叢雲剣を弾き飛ばした。


「…………」


「…………」


 天叢雲剣は私の足元に転がり、静寂が場を包む。


「百千万億、お前の勝ちじゃわい。それはお前が持つと良い」


 私は勝った……のだろうか。


 もう謎の声は聞こえなくなってしまったし、今のは明らかに私の実力ではなかった。


 どう考えても私の敗北だったのに、生き長らえてしまった。


 は、恥ずかしい……!



「ち、違うのです父上……! これは」


「ようやっとたどり着いたな。さっきの力といい、もうわしがお前の剣を強くすることはないじゃろ」


 父は天叢雲剣の拾い上げると、それを私に差し出す。


「ですが父上……私はどうしたらいいのでしょうか」


 確かにこの里で学べるものはもうないかも知れない。


 だけれど、この生き恥とも言える肉体でどこへ行けというのか。


「学園に行け。あそこはやり方こそ最悪じゃが、世界中の剣士が集うと聞く。そこでお前は師を探すのじゃ。学園こそわしの愛娘を高みに押し上げることのできる唯一の方法じゃとわしは思っておる」


 そうか、学園。


 実力主義のあそこであれば失敗すれば厳しく罰せられるし、成功すればどこまでも高みへと行ける。


 私の次の舞台として、最もふさわしいだろう。


「……はい。行ってきます、お父様」


「百千万億よ、わしはお前を愛しておる。八岐一族の悲願、きっとお前なら果たせると信じておるぞ。極めてみよ、お前の信じる剣の道を!」


 父の激励に、心を打たれる。


 この恥は私が進む糧にしよう。


 もう迷いはしない。


 立ち止まりもしない。



 私は天叢雲剣を握りしめる。


 今日、私は恥辱に塗れて死んだ。


 そして生まれ変わったのだ。


 恥を糧として、剣を極める鬼とならん。


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