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第45話 そして、迷いはとうに断ち切った

「か、かったああ……。ぜえ……ぜえ……」


「ええ、そしてわたしの敗北ですか……」


 ツモイとエリカによるワースト決定戦は接戦の末エリカに軍配が上がった。


 さあツモイ、カードを差し出すがよい。


 ツモイは顔を真っ赤にしながら10枚のカードを僕たちにかざす。


「い……いちまい……とってください……」


 カードを持っていない方の手で口元を覆い隠すツモイ。


 あえて再確認するが、ツモイもまたとんでもない美少女だ。


 滑らかな黒髪、健康的なのに儚さを与えるきめ細やかな肌。


 そして顔がとても小さく、端正な顔立ちをしている。


 その美少女がだよ。


 ものすごく恥じらいながら握っているカードの向こう側にとんでもない恥ずかしエピソードを隠している。


 その情景は健全ながらも独特のエロシズムを醸し出している。


……なんかもう、1枚と言わず全部欲しい。


「じゃあ私これー!」


「あっ……」


「なら私はこれかな」


「あん!」



 僕はごくりと息を飲む。


 この先に乙女の秘密が……。


 僕は指をカードに近づける。


「し、師匠……はあはあ……私もう……」


「決めた。右の二番。こいつだ」


 今、カードを引き抜く……!


 が、カードが抜けない!


 みるとツモイが力を込めて抵抗していたのだ。


「な、ルール違反だろ……!」


「あー、ダメです師匠! ダメです! あー! あー!」


「うおおお! 観念しないか!」


 僕は一体何に熱くなっているのか分からなくなるほど、白熱していた。


 その時だった。


 すぽっと小気味よい音と共にカードがすっぽけ、頭の中に記憶が流れ込む。


 ふ、どうやら僕の勝ちらしいな。






      *






「ツモイ、もうお前に教えてやれるものはこれで最後になる。わしにその覚悟を見せてくれい」


 父上は私に告げる。


 父は天叢雲剣あまのむらくものつるぎを握り、私は無銘の刀を握る。


 果たしてこの一刀は草薙に到達するのだろうか。


 思えばこの日のたった一太刀のために10年剣の道を歩んできたのだ。


 私のうちに抱える不安だからこそ、一度剣を握った経験がそれを許さない。


 剣を握った時すでに、迷いは断ち切った。


 剣士は最初の一太刀で自らの弱さを切らなければならない。


 来るな、来るな。


 邪念などとうに捨てたはずだ。


「はい、父上。八岐(やまた)一族にして八岐の剣の道を進みし我が名は百千万億(ツモイ)。今この時を以って剣を極めんとする者」


 月は雲に隠れ、風がうるさく吹き荒ぶ。


 それに煽られた木々が騒めき、烏が唄う。


「……おおきくなったのう。わしは八岐の長にして八岐流正統後継者、八岐(ほむら)。お前が超えるべき壁であり……。お前を愛する父である。参られよ、参られよ!」


 私は呼吸を整える。


 剣技は呼吸に酷く似ている。


 吸って寄せて、吐いては戻す。


 故に、剣戟において先に呼吸を乱した者が敗北するのだ。



「いざ、尋常に……」


 呼吸は今ここに完成した。


 その波紋を指先に伝え、最小の抵抗で無銘の刀を振る。


「「勝負!」」


 先手を取ったつもりだったのに、父は強靭な肉体から高速で天叢雲剣を振り私の剣を打ち返す。


「く……」


 ただ一度打ち合っただけで指先から感覚が失われていくのが分かる。


 だが、引くわけにはいかない。


 この胆力、やはり持久戦では勝ち目がない。


 一撃だ。


 あの壁を切るには究極の一が必要だ。



 一度距離を取り、大きく深呼吸をする。



 刀を弓矢のように絞り、狙いを定める。



 最高速度を保ったままに全体重の全てを剣先に集め、今一条の光となる。


「八岐流奥義、烈一閃牙突(れついっせんがとつ)!」


 これが私の今放てる究極の一。


 どうか、撃ち抜いて。


 違う!


 祈るな百千万億!


 自らの手で父を超えるのだ!

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