第42話 そして、月明かりに照らされた
俺は月明かりを頼りに獲物を追跡する。
だが、こいつはかなり俊敏だ、なかなかに捉えられない。
「おいおい逃げるなって。お前を探すのは骨が折れるんだぜ、黒幕」
獲物はフードを深くかぶりながら呼吸を乱し、肩を大きく動かして乱暴に肺に酸素を送り込んでいる。
こいつがロクトを『勇者パーティ』の餌食にし、魔導船で男を差し向け、この島で殺そうとした全ての黒幕。
こいつさえ倒せれば、あとは混沌の時代が幕を開けるはずなのだ。
それにしても銃射士であるこのアベルの銃撃を全部無傷でやり過ごすとは、本当にすごいなあいつは。
腐っても戦闘力評価Sなんだぜ、傷つくなぁ。
「はぁ……。はぁ……」
俺は引き金を引いて追加で追尾する火球を撃ち出す。
だが、それもまた寸前のところで躱す。
またスキルも使わずに躱す。
これだけ攻撃しても獲物はスキルを使わないのは不自然だ。
やはりそのスキル、一度使えば相当なリスクか秘密があるとみた。
俺はそれくらい暴いてやらなければいけないだろう。
「おいおい、避けると当たらないだろぉ!」
逃げられるリスクはあるが、ここはひとつ大胆にお見舞いしてやるか。
そうすればあいつも何か能力の片鱗を見せるかもしれない。
俺の二丁の魔導拳銃『世界に平和は訪れない』と『混沌迷子の道標』は最大6連射、併せて12発の弾を撃ち込むことができる。
シリンダーに込めるのはそれぞれ熱、二酸化炭素、水素、動体、骨、人肉、思考、音、匂い、生物、魔力、霊感を感知して追尾する魔弾。
絶命必死の秘奥義──
「死に晒せ!」
魔力を原動力に、コッキング要らずの高速12連射。
これを俺に使わせて完全に避けれたやつは今までいない。
それはお前だって同じはずだ。
「…………!」
フードのそいつはスキルを一切使わず全力で躱そうとする。
しかし、弾はあらぬ方向に曲がり、獲物へと襲いかかる!
「……仕留め損なったか」
当たったには当たったが、音、匂いの2発だけか。
それも脚ではなく、腕だ。
脚にさえ当たれば減速してくれていただろうに、くそ。
フードはさらに遠ざかっていく。
「はあ……。やんなるなぁ。アレを凌ぎきりますか、あいつ」
俺は思わず大きくため息をつく。
空は晴れ渡り、綺麗な星空が月を飾っている。
ああ──
──まだだ。
まだ狩りは始まったばかりなんだぜ、地獄の果てまで追い詰めてやるよ。