第4話 そして、元許嫁は現れた
発着場から少し歩いたところに、学園の正門がある。
とにかく何でもかんでも煉瓦造りでできていて、踏み出す度にかんこんと小気味よい音が響く。
舗装は完璧、視界に広がる建物はどれも荘厳な造りで、見るものを圧倒させる。
流石は『学園都市』と呼ばれるだけはある。
戦争のない今、魔界門の出現や海の外からの未知の驚異に備え、五大国全ての合意により戦力の五大国の共有、統治、そして教育。
大陸の中央に鎮座するこの学園は、まさに僕達の住む『アーリアス大陸』の中枢とも言える機関だろう。
そして僕たちはこれから、大陸最大の門を叩くのだ。
*
「これより入学試験を行う。受験生は先程指定した担当試験官の列へ並ぶように」
僕と同じ15歳程度の少年少女が広場からそれぞれの場所へと向かっていく。
「僕のは…丁度近くの列なんだな」
移動が少ない分楽だというものだ。
10列ほどに分けられたが、受験生はかなりの数がいる。
この一瞬の時間で前方に並ぶことができなかったものは不幸だな、そう思いながら僕は列に並んだ。
「…クト……」
しかし試験か…。
僕は極めて頭がいいという訳ではないが、勉強をしっかりさせられてきた身だ。
教養はある方だと思っているが。
「ロクト……」
しかし、最初の試験は筆記ではなく、何かしらの実技のようだ。
だが、僕は受験勉強はしてこなかった。
学園に来る予定のない人間だったのだ。
剣士の家系は学園には行かないのだ、と父ことバカは言っていたが、実際は僕が不出来だと感じていて、学園に送らない適当な理由だったのでは───
「ロークト!」
僕は唐突に後ろからむにむにと二の腕を揉まれる感覚に包まれる。
間違いない、というか懐かしい。
この手癖の悪さ、聞いていて心地の良い声。
だが、ここは試験会場にほかならない。
感動と喜びをぐっと堪えて、彼女に返す。
「こうして僕に接してくれているのはとても嬉しいし、それが君の唯一無二の魅力だと僕は思う。だからこそだよ、その強烈過ぎる魅力は時として毒にもなるんだぜ、『リカンツ』」
「えー、なんで…」
彼女の新雪のように透き通った透明な声に多くの人の視線がこちらへと刺さる。
それ、言わんこっちゃない。
僕は振り返る。
背後と同時に、今までの輝かしい彼女と過ごした日々を。
そこにはやはりというか、あの頃と変わりない純白の少女がそこにいた。
白、白、白───。
色素を感じさせない美しくも儚げな髪、肌、凛と伸びた綺麗なまつ毛。
間違いない、彼女こそ僕の『嫁』こと元許嫁、『リカンツ』だ。
だが、たった一点。
たった一点だけ、僕を動揺させた驚愕の事象がここにはあった。
それは高く聳える山岳のごとし。
二つの大量破壊兵器は、僕の脳細胞の隅から隅までを揺さぶっていく。
だが、それは気高くもあり、凛としてそこにある。
───要するに、彼女は巨乳だった。
あの頃からの成長が目まぐるしい。
「…それは、それはな。それは…」
あああ、めちゃくちゃ恥ずかしい。
あんなにかっこつけて振り返ったというのに、無残にもたった一つのおっぱいの前に僕は敗北したのだった。