第39話★そして、天上の朋は墜落した
「あら、全てお見通しってわけね。まあそんなことどうでもいいけど。だってあんた、ここで死ぬんだから」
アレクシア……!
僕を陥れ、地獄の底への片道切符をくれた『真の仲間』『勇者パーティ』の一人。
その彼女はあの時と何も変わらない野心に満ちた深紅の瞳をギラギラと滾らせ、僕の目の前に立ち塞がる。
「いい趣味してるじゃないかお前。僕の学友を人質に取るなんて」
「ええ、そうでしょう。人は等しくアタシの道具。彼女も泣き喚いて喜んでいたわ」
この女はどこまで腐れば気が済むんだ。
「いいね、アレクシア。じゃあその寛大さに甘んじて学友を解放して貰おうかな」
「バカじゃないの? このアタシが……ちょっと、なによこれ」
アレクシアは言葉通りにエルを縛り付ける何かを解く。
「ふぇぇぇ。ロクトおにいちゃん……」
エルは僕にひしと抱きつく。
小さくて可愛い。
僕の妹ではないが、なぜか妹だと錯覚させる不思議な力を持っている。
こんな少女を操り人形にする外道には、もはや遠慮などいらないだろう。
「ありがとうな、アレクシア。だから僕もそれに応じてプレゼントをあげようかな」
『アジェンダ変更』の影響がもう時期出てくるはずだ。
「失礼します、アレクシア様」
来たか、アレクシアの使用人。
「あんた馬鹿なの!? 足でまといだから来ないでって言いつけてたでしょ!?」
それも一人ではない。
13人。
それは現状のアレクシアが抱える使用人の全ての人数だった。
全く、このために編集リストのほとんどを使ってしまった。
だがその甲斐はあっただろうな。
1人の使用人は僕に向けて光るものを投げ渡す。
「お、ほんとにきた。サンキューな」
僕はその使用人を『アジェンダ変更』で引っこめる。
「あんた何を渡して……。まさか!」
アレクシアの顔が青ざめていくのが目に見える。
「そう、演習の指輪だよ」
指輪が放つ光は金色。
間違いない、アレクシアは100万ベットしている。
「なんで!? どうして!?」
どうだよ、仲間に裏切られた感触は。
気持ち悪いだろ、吐き気がするだろ、腸が煮えくり返るだろ──。
「なあアレクシア、ひとつ聞きたいことがあるんだけれど、いいかな」
「こ、それは私を皇女と知っての申し出なのかしら! こ、この……」
今にも噴火寸前のアレクシア。
さあ、言ってやる。
「なあ、お前。今どんな気持ち……?」
「あ、あああ。ああああああああああああ──! 知らない! 知らないわ! みんな消えて! 消えろ! 消えてなくなってしまえばいいのよ!」
アレクシアは怒りのままに魔術式を展開し、腰に携えていたダガーを振り回す。
もはや僕が手を出すまでもない。
アジェンダ変更──
「いいか、僕の命令は、絶対……」
──その女を陵辱しろ!
「……服従だ」
アレクシアは13の数の暴力に屈し、全身を抑えられ、魔術式は完全に停止する。
「い、いや! こんなのってないわ! やめ……やめて!」
自らが向けた刃に装備を切り裂かれ、身体中から血を吹き出す。
「ちがう! こんなはずじゃない! こんなはずじゃ……ごふっ」
腹を殴られ、首を締められ呼吸困難に陥ったアレクシアは言葉を失う。
これ以上付き合ってやる価値もないだろう。
『アジェンダ変更』、続きは他所でやってくれ。
アレクシアは使用人に引きずられ、シワひとつなかった綺麗な制服を泥で汚しながら、どこかへと消えていく。
「あぅ……。ゆるして……ちがうわ……まちがってる……なにもかも! いや、いやあああああ!」
その悲痛の叫びは耳の奥底へと響き続けた。
ついにアレクシアの姿は見えなくなる。
あいつがどうなろうと僕の知ったことではない。
僕の知らないところで、誰も知られずじっくりと朽ち果てていけ。