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第38話 そして、深紅に煌めいた

「あれえ、ロクトさんにエリカさんじゃないですか! もう夜も遅いのに、どうしたんですかぁ?」


 その甘ったるい声に僕は振り向く。


 面識こそないが僕はその声を知っている。


 やはりというか、『アベルの推し』Eクラスみんなの妹、エルがそこにはいた。


 身長140後半あるかないかのそのあどけなさを与える容姿から、みんなの妹という通り名がつくのは納得ができる。


「エルちゃん、どうしたの〜? こんな暗い茂みは危ないよ?」


 そうだ、茂みは危ない。


 だからここで推測できる話しかける理由は二つある。


 ひとつは僕たちにしか聞かれたくないとっておきの情報がある場合。


 この場合であればおそらくバッジの話だろう。


 そして考えられるもうひとつの最悪のパターン。


 それは騙し討ち。


 僕は彼女のアジェンダをスキルで覗く



•逃げて


・帰りたい


・危ない


・死にたくない


・襲いたくない



……なんだこれは。


 怯えている?


 しかし表情には一切そのような素振りは見えない。


 矛盾だ。


 何か、何かが致命的におかしい。


 僕は彼女を注視すると、隠し持ったダガーを持って僕に斬りかかろうとしているのが分かった。


 スキル『アジェンダ変更』で行動を書き換える。


 そのダガーを地面に落とせ(・・・・・・)



「ねえロクトさん……渡したいものがあるんです……」


 だが、彼女は止まらない。


 一切の殺意を持たず、しかし一寸の狂いもない完璧な暗殺の動きで徐々に僕へと距離を詰める。


 僕が剣の道に進んでなければ危なかった。


「ああ、何かな」


 僕は彼女にあえて近づく。


「ええ、プレゼントは……死です!」


 彼女は僕へとダガーを突きつけようとする。


「ロクトくん!」


 エリカの悲鳴が聞こえる。


 なら、ここで倒れるのはまだ早い!


 幸いにも、エルのそれは素人の技。


 僕は一瞬にしてブロンズソードを抜刀し、彼女のダガーをはたき落とす。


「あれぇ? どうして分かっちゃったんです?」


 見ると、ダガーには毒らしきものが塗られている。


……今のは確実に殺す気だったな。



 だが、僕の覗いたアジェンダにはそのようなものは一切無かった。


 恐らく、彼女は操られている。


 そして人を操る術は大きく分けて二つある。


 ひとつは幻術などで催眠状態に陥らせ、操作する。


 このパターンなら本心はともかく自発的に相手を攻撃しようとするはずで、それならばアジェンダは覗けるはずだ。


 だがそうではなかった。


 つまり考えうる可能性はただひとつ。


「そこにいるのは分かってるよ、出てこいよ」


 物理的に人を無理やり操作するパターン。


 この場合、術者は近くにいなければ操ることはできない。


 だから僕たちを見ているという推論に辿りつくまでそう時間はかからなかった。


「あら、全てお見通しってわけね。まあそんなことどうでもいいけど。だってあんた、ここで死ぬんだから」


 アレクシア……!



 僕を陥れ、地獄の底への片道切符をくれた『真の仲間』『勇者パーティ』の一人。


 その彼女はあの時と何も変わらない野心に満ちた深紅の瞳をギラギラと滾らせている。


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