第32話 そして、荷物は重かった
ああ、重い重い重い──!
確かに僕の作戦ではこの後大量の食料が必要になる。
だからといって非力な僕にこの両手いっぱいの食料の山は酷だろ……!
僕はやっとの思いで食料の入った木箱を降ろす。
「もう……。この辺でいいだろ……」
周囲に人影は見えない。
「お疲れ様〜! よく頑張ったね、偉いぞっ」
「本当にロクトくんは頑張ったね」
僕よりも非力なエリカとリカンツちゃんは手ぶらなまま僕を褒め称える。
「師匠、後はおまかせを」
そういうとツモイは自分の持っていた荷物の上に僕の荷物を積み重ねて軽々しく持ち上げる。
このメンツでは一番華奢で小柄で身長が低く、さらに胸も控えめだというのにどこからそれほどの力を引き出しているのだろうか。
「ありがとう。はぁ……はぁ……。それじゃ行こうか」
そう思ったその時だった。
「はぁ……。なんだか楽しそうだなロクト。俺が代わってハーレムを満喫してやりたいぜ」
気配を完全に消していたアベルが木の上から話しかける。
「アベル! も〜、どこ行ってたの〜?」
エリカの言葉に、アベルは手を振って答える。
「なんだいたのかアベル。もしかしてお前、荷物運びが嫌だったからタイミング見計らって来たんだろ」
そう返してやると、バツの悪そうな笑顔を浮かべる。
「……なんだ、バレてんのかよ。まあいいさ、とにかく俺はこの演習中は別行動を取らせてもらうことにした。悪いなお前たち」
突然の通達に、僕たちは彼が何を言っているのか理解できなかった。
よりによってあの女好きのアベルがこんな好機を逃すわけがない。
「お前、何する気だよ」
僕の問いに、アベルは不敵に微笑んだ。
「……エリカをよろしくな」
それだけ言い残すと、アベルはどこかへと高速で消え去っていった。
「アベル! どこに行くの!?」
エリカの声も虚しく、もうどこかへと消えてしまったようだ。
しかし、こんな時でも奴隷紋は使わないエリカの優しさはすごいな。
「とりあえずここは安全じゃない、地下に行こうか」
僕は物質変更と効果変更を上手く使い、緩やかに地面を陥没させていく。
しばらくすると、地下の真っ白な僕達の拠点、クリーンルームへとたどり着くのだった。
ああもう、疲れが限界に達している。
我ながらひどい軟弱っぷりだなと思いながら、ベッドに横たわる。
思うに、ベッドの生成がこの部屋を作るに当たって最も難しかった。
シンプルな四大元素だけではなく、有機的なふんわりとした物質を再現するのは──
まずい、意識が……。