第30話 そして、海にきた
寄せては返す波のさざめき。
照りつける灼熱の太陽。
そして美少女たち(リカンツちゃん、エリカ、ツモイ)。
これこそ、海——!
「ねえ、ロクト。本当に私たち何もしなくていいの?」
ビーチパラソルの下で僕に膝枕を提供するリカンツちゃん。
そのリカンツちゃんは僕に問う。
「ああ、全然問題ないよ。ちょっとそこの男を見ててくれよ」
僕は賑わいでごった返すビーチ遠方の男を指さす。
「あれ、俺は一体……? まあいいか」
すると、男は『アジェンダ変更』によって自らのバッジを砂浜に埋める。
これがアジェンダ変更の隠された力、記憶操作。
アジェンダ変更中の記憶を引き継がせるかどうかは僕の任意で変えることができる。
「わあ、すごい!」
「まあな。つまり最も人気の多いこの砂浜でアジェンダ変更を使い続け、地下を通して僕たちの拠点にバッジを運ぶ。あとはこうして寛いでいるだけでいいって寸法さ」
だから僕たちは安泰だ。
だが、ツモイとエリカは話が違う。
僕たちは情報提供料としてビーチパラソルや飲み物を代理で購入してもらう代わり、彼女がどうバッジを稼ごうが関与しないという取り決めをした。
実際僕は彼女たちが今回の演習にいくらベットしたのかも知らない。
ツモイとエリカは、波打ち際で和気藹々と遊んでいる。
エリカが「ツモイちゃん、遊ぼーよ!」とツモイを誘い、「師匠のご友人であるエリカ様の頼みであれば」と二人で水のかけ合いっこをしている。
二人の水着によって露出された白い肌が眩しい。
このビーチでは学園側が用意した店がいくつか並んでおり、ポイントさえあればなんでも手に入る。
今回の演習は、まさに僕向きだ。
ただ、人数分以上の水着を用意していたあのアベルがこの楽園に未参加というのが驚きだが。
あいつは「ちょっと調べたいことがあるんでな」と言って一人どこかへ消えてしまった。
夜には戻ってくるそうだが……。
いや、僕は何を考えているんだ。
あのSランクバカがいなければ僕は完全なハーレムなのだ。
袖が鼻水で汚れることもない。
むしろ喜んだ方が良かったな。
そんなことをかんかえていると、楽園にたった1人の男によって暗雲が立ちこめる。
「よお、楽しそうでなによりだな、雑魚」
大柄な男は偉そうな態度で僕に話しかける。
僕はすぐにその男を思い出す。
魔導船の中で僕たちに絡んできた男『グラズ』だ。
「悪いけれど、僕はこの世で最も甘美なリカンツちゃんの太ももを絶賛お楽しみ中なんだ。喧嘩はもう売り切れだよ、よそを当たってくれ」
だが、僕の言葉は通じずに男はさらに僕による。
「舐めてんじゃねえぞ──クソ雑魚が!」
男は僕めがけて拳を振り下ろす。
「やめてくれよ、さっき言ったのが聞こえなかったのか? よそを当ってくれ」
アジェンダ変更。
男は拳を振り下ろすのをやめると、遠方まで歩いていき、見ず知らずの男を殴り掛かる。
「ぐはっ! てめぇ、なんだ!」
殴られた男は怒りからグラズを睨みつける。
だが、グラズは僕のスキルの効果でこの赤の他人を殴りつけたことを覚えてはいない。
「お前が舐めた口を聞くから……。お前、誰だ?」
突如として喧嘩が始まる。
「ごめんリカンツちゃん、少し騒がしくなっちゃったかな」
「ううん、平気」
僕たちはそんな暴力事件と関係なく、優雅なバーベキューの午後を過ごした。