第3話 そして、微かな希望の風が吹いた
ロクト
種族:人間
ジョブ:改造士
型:大器晩成
LV.18
HP:420
MP:300
魔力:112
力:124
知力:180
防御力:92
魅力:194
素早さ:43
運:399
成長率
HP:B
MP:C
魔力:C
力:C+
知力:A
防御力:D
魅力:A
素早さ:E
運:SS
スキル
*剣術ALv.1
確かな剣術の持ち主。剣を握れば戦い方を自ずと理解できる。一個師団相当の戦力に匹敵する剣術スキル。
*大賢者の加護Lv.9
他者から付与された後天的パッシブスキル。本来使用できない魔術の使用を可能にし、専用の回路を通すことで通常の魔法より展開を速める。
*名前をつけるLv.1
対象に名前をつけて編集リストに保存する。名前をつけられた対象は常に座標が表示され、性格、容姿、装備品、アジェンダ(行動優先順位)などを書き換えることができるようになる(ロックされた項目をアンロックするには、ジョブレベルをあげる必要がある)。Lv.1の最大リスト登録数は10件。
*叡智の囁きLv.EX
改造士の複雑な能力の仕様を即座に理解できる。
可能な範囲でスキルの与える影響を予測することもできるが、使用者の見て聞いて感じたこと、即ち経験則の範囲に限る。
*材質変更Lv.1
視界内の対象の材質を変更可能な材質のリストから選択し、変更する。(編集リストに登録することで、いつでもどこでも変更できるようになる)複雑な材質は不可能。
*ステータス変更Lv.1
任意の自身のステータスを下げた分、他のステータスに割り振ることができる。
*アジェンダ変更Lv.1
対象の行動を置換、挿入、削除することができる。(編集リスト対応)
{編集リスト}9/10
*嫁
*バカ
*いす次郎
*デイブ
*窓
*アリん子
*指パッチンおじさん
*マッドサイエンティスト『たける』
*俺の来世(虫)
*
めちゃくちゃ色々書いてあった。
僕は能力を隅から隅まで見ていく。
というか、運SS、剣術Aというのが信じられない。
運がSSならば、僕はこれほど辛い思いをしなくていいだろうに。
剣術の腕が確かなら、追放などされるはずがないだろうに。
思うに、僕はついてない人間だ。
適当なステータス表記に辟易して、大きくため息をつく。
他にも気になる項目はいくつかある。
「大賢者の加護ってあれか? 幼なじみの姉ちゃんが僕に埋めたやつ」
(その通りです)
大賢者の加護ね。
だが、僕はそれを信じられない。
「そんな大層なものじゃないぜ。だって『何も起きない』んだから」
(それもそのはず。ロクト様の家系は剣聖の家系で、魔術には疎いのですから。大賢者の加護の回路の使用はレベル20を超えてから可能になります)
それが本当だとすれば、あと2レベ上げれば僕も魔術の使用が可能になるというわけか。
「まあ、そいつはあまり過信しないでおくよ」
正直魔術には期待していない。
何せ僕は、初級魔術すら扱えない『才能なし』なんだから。
それよりも僕が心を惹かれたのは、ゴミスキルだと信じて疑わなかった『名前をつける』だ。
この説明が正しいとするなら、相手の気持ちや記憶、なんでも思いのままじゃないか。
僕はとなりの席で爆睡してるおっさん兵士、通称『指パッチンおじさん』で何か試してみようかと思った。
ちなみになんで指パッチンおじさんかというと、父と揉めて玉座の間を退場させられた時に、指パッチンで他の兵士に僕の拘束を命令してたからだ。
こいつなら僕を捕らえた張本人だし、何らかの悪影響が出てもいいだろう。
「ペディ、編集リストから『指パッチンおじさん』のプロパティを開けるか」
(了解しました)
半透明の板に指パッチンおじさんのあれこれが表示される。
指パッチンおじさん
種族:人間
ジョブ:戦士
型:普通
LV.28
HP:402
MP:24
魔力:25
力:131
知力:36
防御力:79
魅力:22
素早さ:29
運:30
成長率
HP:C
MP:F
魔力:F
力:D
知力:E
防御力:D
魅力:F
素早さ:E
運:E
スキル
*剣術E
平均的な兵士よりも秀でた剣術の持ち主。ベテランの兵士との個人戦で優位に立ち回れる程度。
*盾術D
優れた盾の技術を持つ。一般的な弓術をおよそ全て受け流せる。
なるほど、スキルは結構強そうな説明だな。
だからこそ、僕の剣術Aが全く意味不明なのだが。
とりあえず『アジェンダ変更Lv.1』を試してみるか。
説明によれば、行動を書き換えられるらしいが。
とりあえずいびきがうるさいので、いびきをかくのをやめると。
僕がそう心の中でつぶやくと、指パッチンおじさんは突如無音になる。
魔導船は2席1組構成で、となりにいびきのうるさいおじさんがいると、せっかくの魔導船だというのに気分は最悪になる。
乗車料が高いからガラガラなのに、わざわざ僕の隣で寝ることに腹が立ってきた。
いや、学園まで連行するためってのはわかるが。
なので次に、『適当な空いてる席で寝る』と念じる。
すると、指パッチンおじさんは突如立ち上がり、本当に遠方の誰もいない席に座り、寝だした。
中々に便利すぎる能力だな、これ。
中々というか、結構やばい気がする。
僕はこの先レベルが上がるにつれて、改造できる項目が増えていくことだろう。
もっと早くこの能力に気がついていればな…。
いや、それは起きた後に考えても仕方のないことだ。
とりあえず力をつけて、父に、故郷にお返ししてやろう。
それが当面の僕の目的になるのだから。
僕は編集リストを見返す。
幸いなことに、父は『バカ』として既に登録してある。
アジェンダ変更で何かしてやろうか、そう考えていた時だった。
「『嫁』…。そうか」
リスト最上部に登録されている少女を、僕は思い出す。
輝かしい青春の日々を。
僕には許嫁がいた。
名前はリカンツ。
僕と同い年で、特徴的な絹のような銀髪に、肌は陶磁のようにきめ細かく、まるで人工的に作られたと言った方が納得できるような美少女だ。
僕が最初に『名前をつける』を使って『嫁』と名付けたのは彼女だ。
それ以降、僕はずっとこの能力を使ってこなかった。
こうして追放されてしまった今となっては、許嫁なんてもう無効なんだろうな。
追放されてしまったことはもうどうでもいい。
だが、彼女のことだけがずっと心残りだった。
今なにしてるのかな、そう思って編集リストを開く。
「う…ん? っ!? 嘘だろ!?」
編集リストには、嫁の座標が記されていた。
それは他ならぬ、この魔導船だった。
「まもなく『学園』に到着します。揺れますので、席を立たないよう、ご協力お願いします」
アナウンスが流れる。
そうか、もう着いたのか。
しかし、この船に僕の嫁、『リカンツ』が乗っているかもしれないのか。
揺れが治まると、みな船を降り出す。
指パッチンおじさんの取り巻きの兵士は僕を囲む。
「おい、降りろ。ここで貴様とはお別れだ。二度と顔を合わせることないだろうな」
ごもっともだ。
なんせ僕はこの学園生活をエンジョイできる気がしてきたから。