第29話 そして、最小額をベットした
リカンツちゃんが少し集中し指輪に魔力を通すと、幻影魔術によってヤライ先生が現れる。
「おめでとう、諸君らは最初の関門を突破した。では、野外演習の今後について説明する。言わなくても分かると思うが、これは前日に録画したものだ、質問の類は一切答えられないし、説明も1度きりだ、よく聞いてくれ」
なるほど、やはりこれが課題だったか。
僕たちは先生の説明に耳を澄ます。
「今回の演習の本来の目的、それは指輪争奪戦だ」
これは予想通りだな。
「その指輪は渡された時点で諸君らから10万ポイントを吸い上げている。だが学園に戻るまで指輪を守り通せばポイントは返ってくる。そして指輪を奪って持ち帰れば、指輪に吸われた分のポイントが貰えるというわけだ。ただし、失くしたり奪われてしまえば諸君らのポイントは帰ってこない」
ツモイは咄嗟に学園にいた時からつけている指輪でポイントを確認する。
「師匠、確かに私のポイントは7万から-3万になっています。間違いないかと」
やはり全員強制参加というわけか。
「指輪を失ってポイントがマイナスになった場合、異界送りか使用人契約のどちらかを迫られる。負債分を誰かが支払ってくれれば使用人の契約は成立だ。まあ、初めからマイナスの者は心してかかるように」
そうかよ、ポイントがマイナスになったやつはもうこの学園ではいらないってことかよ。
どこまでも実力主義だな、この学園は。
「最後に、早期突破した諸君らにこの指輪の初日のみ使える活用方法を説明する。この指輪に賭けれるポイントは何も10万だけではない。20万、50万、100万を賭けることができ、自らの指輪を学園まで守り通せばそれぞれ1.2倍、1.5倍、2.0倍のポイントを得ることができる。さあ、ここからが本当のサバイバルだ」
それだけ言い残し、ヤライ先生の幻影はたち消える。
瞬間、リカンツちゃんの指輪から賭け金のメニューが表示される。
「……えいっ」
もちろんリカンツちゃんはなんの躊躇もなく100万をベットする。
すると、バッジから出てきた青色に光っていた指輪の宝石部分は金色に変化する。
「ちょっ、リカンツちゃん!?」
エリカは当惑しているようだが、何も驚くことはない。
「大丈夫だよエリカ。なぜならこれが僕たちにとっての最小ベット額なんだから」
僕たちはすでにポイントがマイナスなのだ、1ポイントも100万ポイントも減る分には差がない。
「うーん、確かにそう…なのかな」
エリカは親指と人差し指の間に指を乗せて悩んでいる。
「ともかく師匠、この真実に辿りついた者はごく少数かと。今後情報を売る者が出てくることは想像に容易い。この1日の優位、どう活かす算段でしょうか」
それは僕も考えていたことだ、鋭いな。
「まあそれには僕に名案がある。とりあえずこの部屋を出たらハッチを消す。ほぼ確実に安全だから、みんなバッジはここに置いていった方がいいだろうな」
僕の発言から、みな外に出るのだと察する。
「それから? どうしよっか」
リカンツちゃんは僕に問う。
「海にきたらすることは一つ。泳いでバーベキューだ! ……いや、一つじゃなかったな」
波の音が僕たちを呼んでいる。
せっかく海に来たんだから、海に行こうぜ……!