第28話★そして、壊した
僕のスキルで作ったクリーンルームで、僕は今回の野外演習の正体をみんなに説明するのだった。
「ああ、リカンツちゃん。ちょっとそれ借りるぞ」
「いいよ、はい」
僕はリカンツちゃんからバッジを貰う。
「さて、今回の野外演習だけれど、まず何をするのが目的だと思う?」
彼らに質問を返すと、思い思いに考え始める。
「そりゃロクト、3日間この無人島で生き延びる練習だろ?」
アベルは僕に答えを返す。
「惜しいな、僕の仮説だと半分正解だよ。じゃあ再び質問だ。危険生物のいないこの島では、何から生き延びるんだ?」
僕の問いに対して、そうだったと相槌を打つアベル。
「はい! はい! 飢えとかでしょ〜。一回やってみたかったんだよね〜、無人島サバイバル!」
割って入ったのはエリカだった。
「それは多分不正解だな。もしそうだとしたら学園側がここでもポイント交換所を開くのは不自然だからな」
僕があまりにも即答だったため、エリカはがっかりと肩を落とした。
「じゃあ次だ。このバッジ、現時点では用途不明なんだよ。なぜ僕たちに配ったと思う?」
その問いに、場は沈黙する。
しかし、ついにツモイはその沈黙を破る。
「師匠、それはきっと私たちを保護してくれているのではないでしょうか」
なるほど、そういう考え方もある。
「面白いね、続けてくれ」
「はい。おそらくですが、このバッジを通して常に私たちを監視し、何かあれば駆けつけられるような追跡型のアイテムだと私は考えました」
理屈は通っているが、それを学園がやる可能性は限りなくゼロに近い。
ちょっと実力が足りなかった程度で奴隷同然として扱ったり異界送りにする実力至上主義の学園のことだ、きっと生き残れない半端ものに慈悲を与えるなんてことはしないはずだ。
「そうかな。あいつは言ってたな、確か『物理的にも魔術的にも破壊は難しい』んだっけ? それってさ、つまり──」
スキル『材質変更』発動。
「僕には壊してくれと言っているようにしか聞こえなかったけどな」
僕はバッジを大気に変えた。
「ろ、ロクトくん!? そのバッジを失くしたら……」
どうやらリカンツちゃんはだいぶ困惑しているらしい。
それに彼女だけではなく、一同驚愕している。
「大丈夫だよ、確かに失くさない方がいいとは言ってたけど、バッジを壊してはいけないとか、失くしてはいけないなんて、一言も言ってないだろ? それにほら」
僕は破壊したバッジの内部から飛び出した指輪を手に取り、リカンツちゃんの手を握る。
「ろ、ロクトくん……?」
手を握られたリカンツちゃんは赤くなり、動揺を隠せないでいる。
いきなりバッジを目の前で壊したり急展開過ぎたかな。
「どれ、ここかな」
僕は収まりが良さそうな左手の薬指にその指輪をつける。
「ろ、ロクトくんのばか……!」
なぜかリカンツちゃんは目に涙を溜めている。
……なんで?
「ご、ごめん! 何か分からないけど本当ごめんなさい!」
こんな展開のつもりじゃなかったのに!?
エリカとアベルは『泣かせた〜』と僕をからかう。
「ち、違うの。違うんだよロクトくん。そのね、あのね。嬉しくて」
目線が泳ぎっぱなしなリカンツちゃん。
「……そうか。えと、気を取り直して……。続けていい? リカンツちゃん」
「うん、いいよ」
そういいながら、リカンツちゃんは僕の頭を撫でる。
昔ながらのよしよしはみんなの前では少し恥ずかしいよ、リカンツちゃん。
「その指輪、何か魔術が埋め込まれてるみたいだ。リカンツちゃん、起動できるか?」
「うん、やってみる」
リカンツちゃんは少し集中し指輪に魔力を通すと、幻影魔術によってヤライ先生が現れる。
「おめでとう、諸君らは最初の関門を突破した。では、野外演習の今後について説明する。言わなくても分かると思うが、これは前日に録画したものだ、質問の類は一切答えられないし、説明も1度きりだ、よく聞いてくれ」
なるほど、やはりこれが課題だったか。
僕たちは先生の説明に耳を澄ます。