第26話 そして、嵐の前の静けさが訪れた
「よし、全員集まったな。では、お前たちの先輩である生徒会長によるオリエンテーションを行う。よく聞くように」
僕たち一年生たちは、魔導船から降りるや否や、広場に集められ、集会が始まった。
どうやら生徒会長が出てくるらしい。
この学校は2年制、つまり1つ歳上の学年違いがわざわざ下級生の授業にくるということだ。
生徒会長も暇なんだなぁ。
ひとまず、僕は周囲を確認する。
奥はうっそうとした林、そして浜辺。
いかにも無人島と言った感じの風貌だが、さて。
その時、奥の林と僕たち生徒の間に魔力の膜が広がっていく。
それは固まると、階段と台になる。
僕の視線は、その階段のかかった麓にいる気取ったメガネの男に取られる。
僕はあの男を嫌というほどはっきりと覚えている。
「マオ……!」
シュトリ率いる『真の仲間』に騙され復讐を誓ったあの夜、僕にマイナスの点数をくれた、ありがたい生徒会メンバー。
お前のおかげでありがたく兎にも角にも不自由な学園生活を送らせてもらっている。
そしてその隣には金髪長身の男が立っていた。
こいつもまたどこかで見覚えがある……ような……。
いや、違うな。
見覚えがあるとは思ったが、きっと思い違いだろう。
その見覚えのあるようなないような男は、魔術で組み上げられた朝礼台に立つ。
「諸君らと会うのはこれが初めてかな。お初にお目にかかる、私はアーリアス五大国合同学園都市学園生徒会長のアリエル、アリエル=エクシアだ。以後お見知りおきを」
僕はその名を聞いて思い出す。
あの屈辱の日の事は何もかもが脳裏に焼き付いている。
そしてマオ、あの男はたしかにこう言った。
「シュトリの……兄!」
あの男は『真の仲間』を騙ったメンバーのリーダー、シュトリの兄だ。
「生徒代表、前へ」
マオの一言により三人の生徒が壇上へと上がり、シュトリの兄であり生徒会長のアリエルへと一礼をする。
中心に立つ壇上へと上がった三人を、今でもはっきりと僕は覚えている。
あのメンバーこそ僕の『真の仲間』たち、シュトリ、アレクシア、そしてやはりフードで顔をすっぽり覆い隠した少女。
間違いない、彼らこそ僕を貶めた『真の仲間』たちだ。
「彼らは優秀な成績を収めし我が校の誇り。諸君らの言葉を借りるならば……そう、勇者パーティだ。中でも私の弟、シュトリは学年首席。まずはその努力と成果に敬意を評して拍手を」
辺りからぱちぱちと拍手の音が飛び交う。
シュトリ、僕を嵌めた主犯格だ。
お前たちの成績は僕から奪った仮初に過ぎない点数だ。
くそ、何が努力と成果だ!
ほかの二人もまた僕を嵌めてのうのうとしているのか。
そうか、全ての点が線で繋がった。
まず、ポイントは原則マイナスになると使用人か異界送りの刑になる。
なので決闘などで一人あたりから取れるポイントの量はそう多くはない。
だが、指輪によってポイントの概念が完成される前、つまり最初の授業よりも前のタイミングならば、話は違うのだろう。
それをシュトリはあたかも当然かのように知っていた。
学園に来たことのないシュトリがポイントをここまで熟知していたというのは明らかに不自然だ。
だが、学園内にポイントの仕組みを熟知している繋がりのある者がいるとしたら、どうだろう。
そう、兄の生徒会長アリエルだ。
つまり、あの僕を嵌めた計画はあの生徒会長の入れ知恵と見て間違いない。
ついに、ついに敵の全貌が見えてきた。
ふつふつと黒い感情が沸き立ってくるのを感じる。
「ロクトくん」
ふとリカンツちゃんの声に意識がはっとする。
「ごめんね、怖い顔してたから」
そうか、リカンツちゃんは僕を案じてくれていたらしい。
いつまでもあんな奴らに心を乱されていてはダメだ。
……僕は弱いな。
「では、今回の野外演習の内容について発表する。諸君らにはこのバッジを渡す」
生徒会長がそう言って弟のシュトリの胸元にバッジをつけると同時に、役員らしき生徒により僕たちにバッジが配られる。
……もちろん、使用人は対象外だ。
「このバッジは物理的にも魔術的にも高度な強度を誇る、壊すのは難しいだろう。諸君らにこれを持って3日間この危険生物のいない無人島ででサバイバル生活を行ってもらう。何をするも自由だ。そして三日後、ここに再び戻った生徒から野外演習を終了したものとする。以上だ」
それだけ告げてアリエルは台から降りていく。
「聞いたか! これから俺たちは自由だ! お前たち、浜辺でバーベキューと洒落こもうじゃないか!」
台に一人残ったシュトリは告げる。
それを皮切りに、多くの生徒たちがこの場から離れていく。
なるほど、サバイバル生活、ね。
こうして、嵐を巻き起こす野外演習が幕を開けたのだった。