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第25話 そして、無人の島に降り立った

魔導船に乗るのはこれが2回目だ。


 だが、感動するものは感動する。


 何せ地に足をつけて大地を踏みしめる他ない僕たちが、空を飛んでいるのだ。


 この技術の発明は人類の歴史における大きな一歩だ。


 そしてその歴史の中に、僕は立っている。


 これが感動せずにいられるか。



「ねえ、ロクトくん、すごいね」


 対面に座るリカンツちゃんもまた、魔導船に感動しているようだ。


「ああ。本当にすごいよ、魔導船だもんな」


 僕がそう返すと、にっこり微笑む。


「なあおい、この船本当に落ちたりしないだろうな。風が吹いたらどうするんだ。なあ、おい。なあ……」


 さっきからずーっと左に座るアベルはこの調子だ。


 聞くに、どうやら魔導船は苦手らしい。


「なになに〜? アベル怖いのー?」


 アベルの対面席のエリカは上目遣いでニヤニヤとアベルの絶望に満ちた顔を鑑賞している。


「いや、俺は怖くねえ。怖くないぞ……。怖くなんて無いからな。ひぃ!」


 ちょっとした揺れに過敏に反応するアベル。


 普段の僕なら心配して声をかけるだろうが、まあアベルだからな、めちゃくちゃ面白い。



「大丈夫ですか、師匠は私が支えますから」


 僕の右に座るのは愛しのリカンツちゃんではなく、自称舎弟のセーラー美少女、百千万億(ツモイ)だ。


 その彼女は僕の身体を支えるとぬかしつつも、ベタベタと僕の腕に引っ付いて離れない。


 どうやら僕がいつまでたっても弟子と扱ってくれないからか、美少女の色気で籠絡する戦術に転向したらしい。


 だが、僕はその手には乗らないぞ。


 実のところ、僕には可愛い可愛い妹がいたのだ。


……ブラン家を追放された今となっては関係のない話かもしれないが。


 まあ、だからこの手の美少女の扱いには比較的慣れている。


 何しろリカンツちゃんの威光を一身に受け止めてきたのだ、この程度で誑かされたりはしない。


 僕は実の妹を扱うがごとく、ぽんぽんとツモイの頭を撫でておく。


 このルーチンが発動している限り、変な気持ちは沸き立たない。



「おいおい、やたら騒がしいと思ったらEのゴミどもかよ!」


 やや離れたところから随分ガタイのいい男から罵声が飛ぶ。


 さらに大男は僕たちに寄る。



「んびぃぃ! ず、ずびばぜん(すみません)っ!」


 左隣のアベルは高所恐怖症も相まって嗚咽と涙と鼻水で顔面がぐちゃぐちゃになって良い男が台無しになっている……。


「アベル。気持ちは察するけれど、とりあえず僕の袖にすがりついて鼻水を拭くのはやめてくれ」


 反対の僕の右腕をがっしりと掴んで離さないツモイは一切動じないが、それだけですっぱりと首を落とせそうな研ぎ澄まされた刃のような視線を男にくれている。


「なんだてめぇ。このAクラスのグラズ様をゴミくずが睨むんじゃねえ。ぶちのめしてやるよぉぉ!」


 男は大声をあげながらツモイへと拳を振り下ろす。


「八岐流・奥義、弐の型──」


 ツモイもまたカウンターでスキルを発動しようとしている。


 船内で暴れるのはまずいな。



「なあおい、落ち着けよお前たち。今はそういう気分(・・・・・・)じゃないんだろ?」


 僕は二人にスキル『アジェンダ変更』を発動する。



「…………」


「…………」


 長い沈黙と硬直の後に、グラズと名乗った男はあとじさる。


「チィ。……まあいい、今度あった時、それがてめぇらの命日だ」


 グラズはとうとう自分の席へと戻っていく。



「ありがとうございます、師匠」


 ツモイは今がチャンスと言わんばかりに右腕に対して胸をぎゅーっと押し付けつつ抱きつく。


「ごわがっだよぉぉぉ……」


 左のSランクバカも同じく、僕の左腕に体液と胸を押し付ける。


 ああ、これが天国と地獄ね。



「まもなく、目的地に到着します。揺れますので、ご着席くださいますよう、お願い申し上げます」


 ああ、とうとう始まるのか。


 学園の野外演習、一体何が待ち受けているのだろうか。

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