第24話★そして、新たな戦いが幕を開けた
おお、これが……。
ニシンならよく口にしていたが、まさか魚がここまで香り高くなるなんて。
流石は風火帝国のソウルフード、独自の発展を遂げた文明の集大成。
すなわち——
「──うどん」
僕はその艶かしい輝きを放つ麺に慣れない箸でつまみあげる。
「いただきます」
僕はそれを口に運ぶ。
もちっとした食感にハリのある弾力、そして魚介の味が染み渡るスープ。
ああ、本当にうまい。
「ロクトとリカンツちゃん、うどんで本当に良かったの? せっかくの奢りなんだし、食堂の中でも高いものでも頼めばよかったんじゃない?」
どうやらエリカは僕が気を使っていると勘違いしているらしい。
「それは違うぜエリカ。僕はこの様々な食文化が見られる食堂に来る度、ずっと羨ましいって思ってたんだ。結構安いからみんな食べてるし、だから僕たちも食べてみたかったんだよ」
僕がそう言うと、エリカは『へえ、そうなんだ!』と相槌をうつ。
そういうエリカは特盛のボロネーゼにピッツァか。
随分華奢で小柄なのに、よく胃袋に入るな……。
逆にアベルはかなりがたいがいいのだが、サンドウィッチ三切れだけなようだ。
「師匠、お隣よろしいでしょうか」
僕の左側にはリカンツちゃん、右は空席となっている。
どうやらツモイは右側の席をご所望らしい。
「いいよ。どうぞ座ってくれ」
僕は椅子を引いてトレイを持ったツモイを座らせる。
「ありがとうございます、師匠」
僕は今日のツモイの献立を確認する。
なるほど、風火の料理か。
鮭の切り身に、なにやら四角い白い物体が浮かんだ茶色くにごったスープ、それに葉物野菜と米か。
今度食べてみようかな。
「随分賑やかだな。和食とは関心だ」
誰かと思って振り返ると、そこには我々の長身月下美人、ヤライ先生がいた。
「誰かと思えば、先生でしたか。先生も食堂で夕食を取られるのですね」
僕の言葉に、先生は反応する。
「まあな。ちなみに今日私がいただくのパエリアだ。…ふふん」
何故かちょっと誇らしげな表情をしていらっしゃる。
……実はヤライ先生、面白系か?
「えー、先生それおいしそう! いいな〜」
エリカは先生のパエリアを羨ましそうに見つめる。
「まあな。ああ、そういえばお前たち、明日の野外実習について備えてあるか?」
突然野外実習の話題を振る先生。
ん? 野外実習?
「もちろんです。準備万端!」
リカンツちゃんははしゃいでいるが、僕は初耳だぞ。
……いや、思い当たる節がある。
最近の授業はペディに任せっきりで僕は窓から美少女を眺めるか、ダンジョンのことしか考えていない。
つまり、僕が聞き漏らしている可能性が高い。
「(ペディ、そんな話あったっけか)」
(ありました。何なら今日も説明がありました)
つまるところ、これは僕の不手際だ。
「そうか、それならいいんだ。リカンツ、ポイントマイナスの貴様は1点でも減点されれば使用人となるし、負債分を全額支払ってくれる主人が見つからんなら異界送りになる。せいぜい頑張れよ」
僕はヤライ先生の言葉で再認識する。
そうだ、野外実習だからといって気が抜ける訳では無い。
この学園に僕たちの負債額-873万を支払ってくれるやつがいるとは思えない。
そして異界送りはこの大陸における実質的な終身刑。
確かに、僕たちは今危険な橋を渡っている。
だが、絶対にそうはさせない。
「……邪魔したな、では私はこれで」
先生は踵を返すと一人どこかの席へと消えていった。
この野外実習、絶対に乗り越えてみせる。