第20話 そして、銃射手は踊った
「師匠、ここは私におまかせを」
ダンジョンの移動はエリカの星占いの能力で最適なルートを導く。
そして現れた魔物は百千万億が次から次へと一撃で倒していく。
だが、ツモイの斬撃は確かに鋭いが、まだ何か足りないように感じるな。
これでCランク相当か…
もしかしてだが、やはり僕の『剣術A』は強いのではないだろうか。
考えれば考えるほど分からない。
地元ではタイマンは負け続けだったのだから。
突如、けたたましい爆音がダンジョンに響き渡る。
「ツモイさん、後ろががら空きだったぜ」
アベルの一言でツモイは振り返る。
見るとツモイの背後に忍び寄っていた虎のような魔獣が倒れている。
「かたじけありません」
ツモイは深く頭を下げる。
「大丈夫だよ、前線を任せてたのは俺だしな」
そう言ってアベルは左手に持った魔導拳銃の銃口から漏れる硝煙をふうと吹く。
「にしてもすごいな、エンシェントエルフの古代兵器は」
魔導拳銃、それはかつて存在していた滅亡せし文明、エルフの源流、エンシェントエルフが遺した古代兵器の一つだ。
だが、古代兵器は扱いが難しく、技術資料の一切が不明。
それを使いこなせるというのは膨大な知識が必要なはずだ。
流石はアベル、Sクラスにいただけはあるということか。
「すごいものか、メンテナンスは大変だし、弾も特製なもんでコストがかかる。なのになんで俺がこれを使ってるかわかるか?」
アベルの質問の意図をすぐに僕は理解する。
「なるほどな。それしか使えないってことか」
「ご名答。初級職の『弓術士』だった頃に完全にマスターしたはずの弓の使い方はさっぱり忘れちまったし、今では初級魔術ですら弾に込めないと発動できない。不便極まり…ねえよな!」
アベルはそう言いながら、今にもエリカに飛びかかろうとしていた一角うさぎを右手に握った拳銃から放つ魔弾で撃ち抜く。
「ひゃあ! うわ、びっくりしたー! ありがとね、アベル!」
助けてもらったエリカはにっこり笑う。
「主人、使用人に『ありがとう』なんて声かける必要ないんだぜ。ファミリーは主人の手足なんだから。自分の手足に『どうもありがとう』なんて頭を下げるやつ、いないぜ?」
アベルは苦笑しながら、この世界の常識をエリカに説く。
「うーん、でもありがとうね!」
アベルの話などどこ吹く風、エリカはそれでもアベルへの感謝を示した。
すごいやつだよ、エリカは。
常識に囚われず、自分の感情と直感だけで目の前の事件を判断する能力は、きっと世界中探してもエリカくらいだろう。
「ああ、ありがとうな」
照れくさかったのか、アベルは頭をぼりぼりと掻きながら魔導拳銃を腰の収納へとしまう。
「使用人とか、主人とか、そういうのなし。私たち友達だから、ね?」
リカンツちゃんも主従には興味がないらしく、今回の話に付け加える。
「くー、天使か……!」
都合のいいSランクバカはリカンツちゃんの一言でニヤニヤニヤニヤしている。
正直気持ち悪い。
「今のはお前の負けだな」
僕はアベルをからかってやった。
「ああ、確かに主人……いや、違うか。エリカやリカンツさんみたいな考え方の人もいるんだって、改めて認識させられたな」
アベルはうんうんと目を閉じて頷く。
「それはよかった。それにしてもやっぱ強いんだな、お前。さっきの『ガンカタ』だっけか、あれは本当に隙もなくまさに必殺の戦闘術って感じだったな」
僕は正直、アベルの戦闘スタイルをとてもかっこいいと思ってる。
二丁拳銃をぶん回して戦うのは、男の子なら憧れてしまうだろ。