第19話 そして、再び迷宮に足を踏み入れた
「よし、薬草もこれだけあれば大丈夫だろう」
「うん、そーだね」
僕とリカンツちゃんは今日のダンジョン攻略に向けて、準備を終わらせようとしていた。
まあ、僕一人でも攻略できていたのだし、たいした準備も要らないはずだが、念には念を。
「リカンツちゃん、そろそろいいか?」
「うーん、ちょっとまって。…げっ」
ぴょこんとはねた髪をわしゃわしゃと手ぐしと水で頑張って抑えようとしているリカンツちゃん。
僕としてはこれはこれで可愛いんだが。
その時、どんどんと部屋の中が騒音で埋め尽くされた。
発生源は玄関。
間違いなくあいつだ。
「やれやれ、仕方ない。ここは僕が行くよ」
「うん、行ってらっしゃい」
僕は玄関扉をがちゃりと開く。
「師匠、これからダンジョンに挑戦するというのは本当ですか。師匠の手を煩わせるわけには行きません、不肖この|百千万億〈ツモイ〉にどうか護衛の任を命じてください」
出たよ。
あー出ました出ました。
黒髪セーラー刀美少女、ツモイさんがね。
僕は彼女との決闘を制してからというもの、『師匠師匠』と彼女ツモイに執拗に追いかけ回されている。
「慕ってくれているのはすごく嬉しいよ、ありがとう。でもなツモイさん、僕は独自剣術の使い手である貴方に教えられることは何もないし、壁ドンされても何も出ないよ。すみませんね!」
僕はバタンと扉を閉めた。
いや、閉めたつもりだった。
「師匠! に、逃げても無駄ですよ…ぐぐぐっ。この世界の果てまでも…私は…!」
物凄い迫力で剣の鞘を扉の隙間に差し込んで、僕が扉を閉めるのを阻害する。
こうなればスキルを使うしかないか。
いや、まだツモイにはスキルを見せていない。
こんな場面で見せてしまってもいいのだろうか。
いや、いいわけがない!
僕はすかさず最適解を導き出すスキル『叡智の囁き』を発動する。
「(ペディ、『能力バレず なんとかする方法』!)」
(ペディる時はもう少し詳細に検索すると検索が正確になりますよ…。結論、不可能です、諦めてください。ちゃんちゃん)
な、ちゃんちゃんってなにー!?
「師匠! お邪魔します」
彼女は少しのドアの隙間から破竹の勢いで部屋へと押し入る。
くそう、想定外だ、想定外だ、想定外だ。
彼女は一体、何なんだ…?
*
「おまたせ、エリカさん」
「やっほ〜! あとエリカでいいって言ってるでしょ〜?」
「あ、そうだった。次から気をつけるね」
リカンツちゃんはてへ、と自分の頭に拳を軽くぶつける。
僕達は待ち合わせの時間通りに落ち合う。
何もかもが予定通り、そう思いたかった。
「こんにちは、みなさん」
そういうと、刀セーラー美少女はエリカに向けて頭を下げる。
「え、えーと、ツモイちゃん…?」
エリカはツモイを見つめ、やや困惑しているようだ。
「エリカ、先日の御無礼、どうかお許しを。この百千万億、今は師匠に修行をつけていただいている身。本日はよろしくお願いします」
またもツモイは頭を下げる。
修行をつける確約をした覚えはないんですが……。
「あーなるほど! じゃあ一緒に行こ! ツモイちゃんー!」
「師匠の友人でありクラスメイト、もっと仲良くしなければ…にゃん」
もう猫化は解いたのだが、ツモイは時折語尾が『にゃん』になる。
「おや、どなたかと思えばツモイさんか。美少女なら俺は誰でも歓迎さ」
エリカの使用人、元Sクラスのアベルは相変わらず嫌なやつだ。
一体どうやってこんなやつをエリカは使用人にしたんだろう…。
「にゃん」
ツモイはアベルにぺこりと頭を下げる。
……口調は元に戻ってないが、それはそれ。
「ね、それじゃあいこうか」
そのリカンツの一言に合わせて、リカンツ、エリカ両ファミリー合同パーティは迷宮門へと向かった。
「迷宮門の設定は僕がするよ」
僕はエリカから魔石を預かると、門のくぼみへとそれを填める。
今回挑むのは《E級・水》と事前の打ち合わせで決めてある。
しばらくすると、迷宮門が起動し、光を放つ。
僕達は躊躇なくそれに入っていくのだった。