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第18話 そして、Sランクバカは見境がなかった

 退屈な授業だ。


 初級魔術すら使えないこの落第者のロクトとしては、『使用人のよく使う支援魔法』なんて授業はまるっきり中身がないのと同じだ。


 落第者が多い使用人のみの授業で、落第者に使えそうもない魔術を教えるのはこの学園の教育カリキュラムに問題があるとしか言えない。


 幸いにも窓辺の席なため、退屈凌ぎに校庭を眺めることができることが救いだろう。


「で、ロクト。……おい、ロクト」



 S級からE級に使用人ときて編入してきた変人、アベルが僕に話しかける。


 こいつは黙っていれば相当なイケメンなんだがな。


「なんだよアベル。僕は今健全な発育途中の女子の体操服姿を眺めるのに忙しいんだ。悪いがお前を視野に入れる一秒すら惜しいんだよ」


「つれないことを言うな。俺が今まさに話そうとしていたのは、そういう話題なんだから」



…僕はあえてアベルが言いそうかつ納得してくれそうな返しをして撃退してやろうとしたのに、帰って仲間意識を高めてしまったらしい。


「なんだよ、その話題ってのは」


「ロクト、俺はお前が羨ましい! よ! 罪な男!」


 授業中だというのに、結構な声量でアベルは話をする。


「で、どの辺が罪な男なんだ、僕は」


「どの辺ってお前、学園トップクラスの美少女、リカンツちゃんの使用人やってることに決まってるだろ」


 僕は彼の自由奔放な振る舞いに、思わず苦笑してしまった。


「お前、この前まで『ああ、エリカちゃそ、天使だ』しか言わない機械人形みたいになってたじゃないか、エリカに対する誠意はないのかよ」


「例え俺ほど純粋な心を持つ人間でもたまには推し変したくなる時もある」


……都合のいいヤツめ。


「じゃあ、エルとかはどうなんだよ。ほら、クラスで1番ちっちゃいやつ」


 エル、名前に反して小柄で華奢で、男子の間ではみんなの妹という通り名が存在する彼女。


 僕は彼女の場合はどう思っているのかなんとなく気になったのだ。


「ああ、俺の推しのことか」


「お前……」


 まさに見境なしとはこのことだ。


「けれどまあ、俺の中で次にくる美少女ランキングで言えば、間違いなくクロエさんだろう」


 クロエの名前を聞いて、僕は少し固まる。



 スタイル抜群、黒髪ロングでいかにもお嬢様といった彼女であるが、前回の成績ランクでは下から二番目。つまり僕とリカンツちゃんの次に成績が悪く、成績マイナススタートはこの学年では僕らと彼女だけなのだ。


 彼女の点数は-147万点。


 しかし、彼女の異様さを引き立てているのは、そこではない。


 これだけの悪成績を残しておきながら、彼女は使用人ではないのだ。


 つまり、合格しておきながらその初日に大きくポイントを減らす何かがあったのだ。



 彼女の慄然とした態度からは騙されやすい感じはしないし、かといってポイントを無駄遣いするような人物にも見えない。


 だからこそ、クロエの異様さは際立っていた。


 僕の杞憂ならばいいのだが、彼女は何か大きな秘密があるように見える。


 ただ、願望としては僕と同類の騙された側であって欲しいが。


「なるほどな。気持ちは分かるが、僕はちょっと彼女のこと苦手なんだよな」


「なら俺が貰って構わないな」


「本当にすごいよお前、どこからその自信が湧いてくるんだか…」


 僕は彼の周りの目を気にしない、物怖じしない態度を尊敬している。


 まあ、同じくらい侮蔑もしているが。



「相変わらずお前たちは…」


 授業を行っていたヤライ先生は教科書で軽く僕とアベルの頭を叩く。


 ていうか僕はこいつとセットなのかよ…。


「いやはや、これほど美人な先生に叱られる体験などこうもない。Eクラス冥利に尽きるなぁ」


 アベルはにこにこと満面の笑みになる。


「それ、元Sのお前が言うとただの皮肉だぜ」


「おっと失礼」


 アベルはキリッと引き締まった顔になる。



「…よろしい。ではロクト、貴様に答えてもらうとするか。この初級魔法、火球の魔術式の間違っているところはどこだ?」


 アベルの咄嗟の対応から、まだアクションが生じてなかった僕に飛び火する。


 正直魔術式なんて僕にはからきしだ。


 だが、僕には最高に頼れる相棒がいる。



「(ペディ、僕の経験から解析して答えを出せるか?)」


 僕の心の中に住む相棒、スキルのペディはそれに反応する。


(可能です。ここはつまり───)


「なるほどな」


 僕はペディのセリフを丸々復唱して答えた。


「……正解だ。だがやかましい態度は控えるように。成績だけで評価するのがこの学園だが、私とて人だ。私の気持ちを考えてくれよ」


 そういうと教卓へと先生は戻っていくのであった。


 先生には悪いことをしたな、後でジュースでも奢ってあげたい気分だ。



「…ロクト。今回は仕方ない、ダンジョン攻略作戦会議はまた後だ。俺たち学生の本業は勉強、だろ?」


 アベルはキメ顔で僕にそう告げると、いかにも勤勉そうな雰囲気を醸し出しながら机に向かった。


…お前が無駄話を広げるからだろ。



 僕がセーラー刀少女『ツモイ』と決闘して数日、やはりというか学園の最初の課題はダンジョン攻略だった。


 その情報が発表された今朝、美少女星占い士のエリカさんはどうやら不安だったらしく、「ロクトくん、おねがーい!」と泣きつかれてしまった。


 彼女に恩もある僕はその結果としてエリカの使用人、アベルと『リカンツ・エリカファミリー合同攻略』作戦会議をする予定だったのだ。


 まあ、あの甲斐性なしのせいで得たものは何もなかったが。



 しかし、正直作戦を練るのに損はないが、そんなに考えすぎることもない気がする。


 何せ落第者の僕ですらE級ダンジョンをソロ攻略できたのだ、元Sのアベルが使用人ならまず失敗は有り得ないはずだ。


 エリカは結構心配性なんだな。



 まあ、あのアベルの態度を見てたら無理もないか。



 アベルは元Sクラス、最優秀学級の生徒だった。


 だけれど、ある日突然にEクラスに編入してきたのだ。


 それも、たった一人の少女エリカに仕えるためにだ。


 僕のクラスはそれで大騒ぎ。


 今では割と馴染んできたが、本当に一体エリカとどんな取引があったのだろうか。


 それだけは『エリカに一目惚れ』としか答えてくれず、ずっとはぐらかされたままだ。



「は、いかんいかん」


 僕は机を前にして、余計なことばかりを考えていた。


 僕が見るべきは、校庭で体育を行っているリカンツちゃんの揺れる胸を視姦することなのに。


「これが学生の本業だもんな」


 僕は授業を一切聞かず、窓辺に黄昏揺れ美少女たちの胸部を眺め続けた。


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