第15話 そして、戦いの中で何かを得た
「なあおい、大丈夫か?」
僕は床で伸びている侍少女に声をかける。
「うーん、ここは」
どうやら無事らしい。
しかし、剣の振動だけでこいつが倒れてしまうとはな。
「良かった、ならお前にはやるべきことをやってもらわないとな」
「私は…。負けたの…にゃん!」
突如、彼女の語尾がにゃんに切り替わる。
そういえば決闘の時の約束が『語尾ににゃんをつけて反省』だったな…。
そして今になってその効果が発動したと。
どうやら決闘の内容に関してはこの指輪の効果なのか逆らえないらしい。
「おーい、ロクトくん〜! 怪我はない? 大丈夫!?」
星占い士であり、今回の決闘の一因となった事件の被害者である少女、エリカが僕の元へと駆け寄る。
「ああ、大丈夫だよ。ほら、立てよ侍女。通すべき筋があるだろ」
「…にゃーん」
僕の声で侍女は立ち上がる。
「ツモイさん、あの、わたし…」
エリカは僕の知っている元気いっぱいな態度とはうって変わり、バツの悪そうなトーンで侍女に話しかける。
「すまなかった…にゃん!」
突っ伏してから一度立ち上がった彼女は今度は座り込み、頭を地面につける。
これが噂に聞く東の国の最高級の謝罪方法『土下座』か。
「う、うん…? いーよ大丈夫! 大丈夫だから、ね?」
エリカに促され、侍女は顔を上げる。
「私の八岐流剣術はものにするのに十数年を要した秘伝の技なのにゃん。だから数日で教えられる技ではないのにゃん。それを気軽に教えて欲しいと言われて、つい…。本当にごめんなさいにゃん!」
なんだか真面目なシーンなのに、にゃんにゃん言っててちょっと可愛いな。
「大丈夫だよ! わたしの方こそツモイさんの気持ちを考えられなくて、ごめんね!」
エリカも真面目なシーンなのに、つい猫ちゃん的な可愛さに負けて侍女の喉元をこちょこちょしててこれもまた面白い。
エリカと侍女の話し合いはしばらく続いた。
「───それとロクト、私にお願いがあるにゃん」
「なんだ、申してみい」
侍女の口調に釣られて変な口調になってしまった。
「ロクト…ロクト様、いいや師匠! 私は百千万億という者にゃん。今日からロクト様を師匠と呼ばせて欲しいにゃん!」
「へ?」
僕が?
独自剣術の使い手の師匠だって?
「残念ながらその役は僕には務まらないよ」
僕はそう告げるが、彼女は首を横にぶんぶんぶんと振る。
「剣戟を飛ばすなんて、私は聞いたことがないにゃん。こうして出会ったのも運命。私はロクト様に仕えてもっと強くなるにゃん!」
斬撃波なんて、地元じゃスタンダードな技だったんだけどな。
なにやら面倒くさい展開になってきた。
「ロクトくん〜。おつかれさま。お腹空いたから帰ろう?」
僕の嫁(仮)、リカンツちゃんが僕の元へとやってきた。
ナイスだリカンツちゃん。
さて、そろそろ潮時だろう。
「そういう訳で僕たちはそろそろ帰ろうかな。さようなら〜」
だが、4本の腕が僕の動きを制止させる。
「師匠、待って欲しいにゃん!」
「ロクトくん〜、あ゛りがど〜…」
く、エリカとツモイに腕を掴まれて逃げられない。
確かに余計なことに首を突っ込んだのは僕だが、それでもこれ以上余計な時間をかけてはいられない。
僕はポイントを稼ぐためにダンジョン攻略に向かう予定があったのだ。
く、このままでは。
僕は助けを求めてちらっとリカンツちゃんに視線を送る。
それに合わせてリカンツちゃんはウインクで応える。
どうやら汲み取ってくれたらしい、流石はマイハニー。
「も〜。ダメだよ、ロクトくんは今日宴会芸の練習があるんだから」
なんだそれは、初耳だよ。
「そんな〜! 君、ロクトくんの主人だったよね? お願いだよ〜」
「こうなれば色香で誑かす他ないにゃん…」
僕を繋ぎ止める腕をぺりぺりとリカンツちゃんは引き剥がしていく。
「うーん、明日ね」
結局、僕はリカンツちゃんに助けられて、その場を離脱できたのだった。
*
「ふん、くだらないわね」
私は試合の全貌を見たわけではないが、E級の決闘などたかが知れてるだろう。
それにしても、この私、アレクシアとシュトリに騙されてポイントを取られた間抜けが初日から決闘騒ぎを起こすとは。
マイナス1000万点、どうやっても覆りはしないはずだ。
それなのにこの諦めの悪さだ。
そう遠くない内に、あの目障りな男、『ロクト』をこのアレクシアの手で自ら排除してやろうか。