第11話 そして、全てを話した
なるほど、ここがリカンツの部屋か。
金色をふんだんにあしらった華美な装飾という印象をまず受けた。
大きなベッドが部屋の中央に一つ。
個人の部屋にちゃんとシャワールームまで完備されている。
だが、明らかに違和感しかないものが一つ。
X字型の磔台が、部屋にはあった。
「ふう、ついたね」
彼女は部屋につくや否や、ベッドに腰をかける。
「ああ、ちょっと疲れたな」
それもそのはず、今日は試験があったのだ。
それに僕は、一悶着あった。
「あ、そうだ。ロクトくん、おすわり」
「ワン。ってなんじゃこりゃああああ!」
唐突に彼女の命令に僕の身体は従順に従う。
く、これが使用人の辛さか…!
「私はね〜。ちょっと怒ってるよ。ロクトくん、なんでか当ててみて」
リカンツはぷく〜っとふくれっ面になる。
見た目は可愛らしいが、これは結構マジで怒ってる時の顔だ。
これは真面目に考えなければ。
「そうだな、あの試験の後いなくなっちゃったからか?」
僕は正直、これしかないと思っていた。
僕が『真の仲間』詐欺なんかに引っかかるから、てっきり彼女は呆れていたのかと思っていたが、どうやらまだ僕にその事で愛想をつかしては無かったらしい。
と、思っていたが、どうやら違うらしい。
彼女は首を横にぶんぶん振りながら破裂しそうなほどふくれる。
「違う〜! もっと大事なこと!」
随分ご立腹だ。
やばい、何が原因なのか本当に検討つかない。
「ごめん、ギブだリカンツちゃん。教えてくれ」
「わぁ〜!」
突如曇り模様だったリカンツさんの表情は虹がかかるようにぱーっと晴れていく。
「あの…。リカンツさん?」
「も〜。『さん』じゃない。『ちゃん』って呼んで」
その瞬間、僕はかつての記憶が一気に蘇る。
そうだ、僕は彼女を『ちゃん』付けで呼んでいたのだ。
僕は領地を追放されたあの日の記憶を、遠ざけようとしていた。
それと一緒に、気が付かないうちに彼女と過ごした思い出の日々すらも捨ててしまっていたらしい。
「ああ、リカンツちゃん」
「えへへ、ロークト! よしよしよし〜」
「ちょっ…」
彼女はお座りしたままの僕を抱きしめると、思いっきり頭を撫でる。
…僕は犬か。
「教えて。ロクトに何があったのか」
彼女の表情はキリッと引き締まったものになる。
なるほど、流石は僕の元許嫁だ。
ちゃん付けで呼ばなかっただけでここまで察するとは。
全く、彼女はとんでもないやつだ。
だから僕は、彼女の聡明な対応に応えなければならない。
「ああ、いいよ。けど長くなるぜ」
「うん、いいよ」
───僕は全てを話した。
ブランの名を失ったこと。
領地から追放されたこと。
能力のこと。
シュトリに騙されたこと。
そして、もう君が許嫁ではないこと。
包み隠さず、全てを話した。
彼女にだけは、嘘をつきたくなかったから。
「これが全てだよ、リカンツちゃん。ご清聴ありがとう。もう君は許嫁でも何でもなくて、ただの超絶かわいい攻略非対象幼なじみヒロインなんだ」
「うん、分かった。でも最後のは違うよ」
「うん?」
彼女はただ一点を除き、すんなりと僕の今までに起きたことを認めてくれた。
だが、彼女は時折謎の頑固さを発揮する時がある。
「私は普通にこれまでも、これからも『超絶かわいい攻略対象幼なじみヒロイン』のままだよ。多分メイン張ってる」
「えっ」
僕はどうやら彼女を勘違いしていたらしい。
追放されたというのに、まだ彼女は僕を見てくれている。
嬉しい。
きっとこんなにもよくできたヒロインは、世界中探しても君だけだぜ、リカンツちゃん。
「むー。なんで分からないかなぁ。じゃあ『もうダメ〜』って言うまで、みっちり教えてあげる」
「ちょ、リカンツさん!?」
リカンツちゃんは奴隷紋を行使して、僕を磔台に送る。
呆気なく拘束される僕。
「いい? 私は超絶かわいい幼なじみのリカンツちゃん。ちゃんと覚えてね」
「ま、まってもごもごもご」
「おだまり」
リカンツちゃんはどこからともなく取り出した未使用の綺麗なフワフワのはたきを僕の顔に突きつけた。
「ふふっ、剣聖リカンツに逆らうとどうなるか。絶技をお見せしちゃお」
はたきを剣に見立て、彼女は構える。
そして僕は、一晩中みっちり彼女のおもちゃにされた。
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