第10話 そして、そよ風は吹いた
「ですから、学園でのコンパニオンの手続きは相手を連れてくる必要があります。その方が来られるまでは学園で認められません。いいですか、締切まであと1分です。それまでに相手がこなければ、落第者は異界送りになりますから」
「そんな…。ロクトくん」
遠くで何やら話し込んでいるのが見える。
目を凝らすと、それはリカンツだった。
「おーい! リカンツ!」
金髪の彼女に導かれるままに来てしまったが、本当にリカンツに会えた。
「はぁ…はぁ…。どう…。これがわたしのジョブ『星占い士』の能力、『星占い』…。ぜぇ…。ぜぇ…」
なるほど、めっちゃ助かった。
「ごめん。時間ないの。ロクトくんもらうね」
「な、おい」
リカンツは僕の手を取ると、グイグイと小さな小屋の前へと引っ張っていく。
僕は気になって僕を連れてきてくれた金色の彼女の方を見る。
彼女はとびきりの笑顔でオーバーリアクションに手を振って、その場を颯爽と去っていった。
まるで草原に吹く気ままなそよかぜみたいなやつだったな。
「受付のお姉さん。この子が私の使用人です。ロクトくんって言います」
「は、はあ。では、こちらの術式をコンパニオンに埋め込んでください」
僕は石版に記された術式を見て驚愕する。
術式の中身は、奴隷紋と酷似していた。
これは、ほぼ奴隷というかまんま奴隷だぞ。
「はい。じゃあロクトくん、埋めるね」
「いいやちょっと待ってくれ。その術式は…」
「使用人にならないと、落第者は異界送りなんだって。大丈夫、悪く扱わないから。それにねロクトくん、落第者に選択権はなーいのっ」
異界送りか。
実質終身刑の最も重い咎人への対処だ。
異界へと繋がる門を開き、その先へと追放する。
それがただの落第者という理由だけで課せられるのか。
流石に異界に送られたら即死ものだ。
何せ魔物が闊歩しているという。
「…。背に腹は替えられないな。だけれど、一つだけ思うところがある」
「なあに?」
「僕はマイナス1000万点らしいぜ。それが何を意味するのかは分からないけど、一応な」
シュトリによって背負わされた負債。
これが何を意味するのかはやはり分からないが、きっと学園での生活に大きく関わるのでは、と僕は推理している。
「んっ…」
リカンツは少し間を空けると、口を開く。
「だいじょーぶ。それは些事、だよ。さ、おなか見せて」
些事ね。
てっきり重い事態なのかと考えていたが、ポイントがなんなのか知ってそうなリカンツの態度からして、案外そんなことはなさそうだ。
僕は彼女のその一言に安心し、チュニックを捲る。
「よろし。では…。えいっ!」
彼女の手が僕の胸に触れると、ひりひりと火傷のような痛みがじんわりと広がる。
だが、僕も男の子だ。
それくらいで泣き喚きはしない。
「偉いねロクトくん。よしよし」
彼女は僕の頭を撫でる。
「少し子供っぽくないか? それ」
「んー。そうかも」
受付のお姉さんは僕たちの行動を見てハンカチを噛んでいた。
…ごめん。
「場所を変えようか。僕は訳あって学園に関する説明の一切をまだ受けてないんだ」
「それはそう。じゃあ、私の部屋に来なさいな」
「ああ、そうさせてもらおうかな」
僕は彼女の提案に、首を縦に振った。
「実は使用人のロクトの暮らす部屋でもあるんだけど」
「えっ」