無人駅
ここは無人駅。文字通り誰もいない。いや違うか、僕の他にもう1人居る。僕に気づかず携帯ばかり見てるサラリーマン。
「ねえ」
「うわっ!びっくりした。え?子供?何でこんな時間に……」
そう言って腕時計を確認するおじさん(サラリーマン)。確かにこんな時間(8時過ぎ)にここに来るのは久しぶりだから、驚かれても仕方ないかも。
「おじさんお仕事終わったの?」
「え?あ、ああ。珍しく残業が早く終わってね。帰っても誰も居ないけど、なんだかやけに体もだるいし早めに寝てしまおうかなってね。おっとっと、こんな話興味ないか。あはははは」
「ううん。電車もまだ来ないみたいだし、良かったらおじさんのお話を聞かせて」
おじさんは僕が指し示した電光掲示板を見て頷くと、ポツリポツリと話し始めた。昔作った借金の話や逃げた奥さんの話、仕事の愚痴など出てくる出てくる。
「でね、あのクソ部長……あれ?気づかなかったけど膝擦りむいてるじゃないか。大丈夫かい」
「え?あ、うん!大丈夫!急いで走ってたら転んだだけだから。…それに、うち貧乏だから我慢出来るところは我慢しないと」
「……そうか、気をつけるんだよ」
「うん!ありがとうおじさん!」
笑顔で返事をすると、おじさんの頬が少し引き攣った。どうやら上手く笑えなかったらしい。練習したんだけどなぁとムニムニ自分の頬をつまむ。
「あ、ごめんね。気にしてたんだね。大丈夫!すぐに上手くなるよ!…………って私はなにいってんだろ」
「あはははは。おじさんって面白いンだね」
「フフフッきちんと笑えているじゃないか」
「え?…そっかーこんな感じに笑えば良いんだね」
覚えておこう。こんな風に笑えばみんなに馬鹿にされないんだな!ふむふむ。
「そう言っている間に電車が来たようだ。この電車に乗るんだよね?」
本当だ。遠くから電車の明かりが近づいてくる。
「ううん。違うよ!」
「そうか、私はこの電車に乗るからお別れだね」
「はぁ………もうお別れかぁ寂しいなぁ」
「あはははは大丈夫。また会えるさ」
そう言って悲しげに笑うおじさんを………………………勢いよく線路に突き落とした。
「…え?」
宙に浮かぶおじさんの体。おじさんは何が起こったのか分からないといった感じで、ちょっと申し訳なく思った。そして
ガタンゴトーンガタンゴトーン ぐしゃっ キキーーーーッ
僕はおじさんに、おじさんの教えてくれたとびきりの笑顔を送った。
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁあ!ひ、人がぁ」
酔っぱらいがおじさんが居た場所を指して叫んでいる。いつの間に来たんだろう?まあいいや。僕のこと見えてないみたいだし、それにもう限界だから。どうやら僕が現世に居られるだけの負のエネルギーが切れた。あーあ、もうちょっと居たかったなぁ。携帯がガラケーから板に変わってたし……あれ?携帯…だよね?次出てこれたらそこらへんも聴いていようかな。とりあえず
「バイバイ」