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孤島の荒くれ傭兵

 

 1948年 2月 インドネシア諸島 無人島


 インドネシア独立戦争により、海の彼方から波の音と同時に爆発音が微かに聞こえる中、青空と海の水平線にとある小さな無人島が浮かんでいた。その砂浜に二つの天幕が建てられたキャンプがあった。


 その天幕の室内はタバコ臭がして、ナイフが刺さったままの机の上には無線機と信号機とタイプライター、更には地図と写真と弾薬が散乱し、地面には酒瓶が散らかり、ハンモックのその隣の柱には愛用のStG44(突撃銃)と二式自動拳銃が掛けられてあり、そのハンモックで寝そべりながら、タバコを咥えていた青年がいた。短髪の頭に赤い鉢巻を巻き、旧日本軍の戦闘服をだらしなく前を開いて着込み、無精髭を生やしたその男の名は鈴木源一(すずきげんいち)である。


「ふ〜〜〜」


 タバコの煙を一気に噴き出し、灰皿にそのタバコの灰をチョンと入れた後にまた口に咥えたその男は、かつてあの八百万の神であった無邪気な子供とは思えない堕落した大人の男に変貌していた。


「源一。そろそろ行くぞ」


 その時、突如ミリタリーコートを着たザンバラ頭の小柄な可愛いらしい少年が天幕に入って来ると、源一はブーツに仕込んである投げナイフを咄嗟に投げ、少年は自分の顔に飛んでくる投げナイフを無表情で二指で受け止める。彼の名は林繁賦(リンファンフー)。源一と行動を共にする相棒である。


「そう急かすな(レン)。今行くよ」


 連というのは少年の字である。


 源一は寝相が悪そうな表情で起き上がり、頭をくしゃくしゃと掻き始めると、


「さて」


 彼は口に咥えたタバコを地面に落として踏みにじり、彼の肩にポンと叩いた。


「お待ちかねの豪遊タ〜イム!」


 二人は下品に笑いながら、小さな木製ボートに乗り始めて、30キロ先にある島へと向かった。


 そして、二人がついたのは寂れたスラム街で、そこの酒場にやって来た。ヤニの臭いが充満する酒場で二人は酒瓶をラッパ飲みしながら、四角いテーブルで麻雀をしていた。ちなみに無精髭の源一はともかく、繁賦は一見少年のように見えるが、これでも50年以上は生きている。


「よっしゃー! 国士無双!」


「やるな相棒!」


 源一が勝ち誇ったかのように笑うと、彼はその場の賭け金を全て根こそぎ取る。


「いやほっ〜う! ハハハ! 今日もツイてるな〜!」


 まるで今から33年後に初登場し、その15年後に初めて声を出したスーパーマ○オのような高笑いする源一はその大金に笑いが止まらなかった。


「よし、もう一戦だ!」


 二人はもう一度ゲームをしようと牌を集めると、


「ふ、ふざけるな!」


 彼らの相手をしていた二人の男が立ち上がって、二人を指差した。


「二人で組むなんて、こんなのイカサマだ!!」


「ああん?」


 源一は不機嫌そうに睨みつける。


「こちとら相棒と組んでいようと、ちゃんとルール通りに従ってんだ。その証拠はあるんか?」


「ない。だが、こうすれば解決だ!」


 すると、男の一人が急にナイフを源一に向け始めた。


「てめえなんの真似だ?」


「イカサマで盗った金を返して貰う!」


 源一は手に持ったウィスキー瓶を水みたいに飲むと、酒臭い息を男に吐き、灰皿に置いていたタバコを口に咥えながら、言い放つ。


「この俺にナイフを向けるとはいい度胸だ」


 その瞬間、源一は相手の手首を素早く取り、関節技で手首をへし折った後、持っていた酒瓶でその頭部を叩きつける。


 パリン!と瓶のガラスが割られた音と共に相手の頭部から流血し、そのウィスキーの強いアルコールで傷口に浸み出して、相手は悶絶する。


 その様子を見た繁賦は今一度、源一に確認した。


「喧嘩か?」


「ああ! 酔い覚ましに少し運動しようぜ!」


 彼ら二人は椅子から立ち上がり、手の指をゴキゴキと鳴らして、二人の男と喧嘩を始めた。


「お? やれやれ!」


 すると、その喧嘩の様子を見た酒場の客は普通は逃げるか、悲鳴を上げるか、警察を呼ぶかのどちらかの行動を取るべき筈なのだが、そのどちらでもなく、彼らの喧嘩をまるで格闘技の試合の様に歓声を上げる。


「どっちにかける?」


「俺はあのガキンチョに30ルピーだ!」


「じゃあ、俺はあの兄ちゃんに50ルピーだ!」


 観客達は彼らの喧嘩でどちらが凄い技を決めるのかを賭け始めた。


「おい、マスター! ウィスキーを!」


 繁賦はカウンターに金を置いて店主に注文すると、店主はニヤリと笑いながら、無言でウィスキー瓶をカウンターに置いて、繁賦にスライドで滑らせると、彼はその瓶を受け取る。


「釣りはとっとけ」


 繁賦は店主にそういうと、手に持った酒瓶をパリン!と男の頭に叩きつけ、観客はそれに歓声を上げる。


「椅子だ! 椅子をくれ!」


 今度は片手で関節技を決めて動きを止めてる源一が観客に対して椅子を要求すると、客の一人が椅子を持ってきて、ペコリと頭を下げながら源一に渡す。


「ありがとう!」


 バキャア!と片手で相手の体に椅子でぶっ叩くと、その椅子の脚が粉々になって木屑が飛び散ると、観客はまたも歓声を上げる。


 更に彼らはボコボコにして気絶してるその男二人を酒場のドアから投げ捨て、泥まみれにさせた。


『うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!』


 まるでプロレス観戦をしてるかのような観客の盛り上がりに、源一と繁賦の二人は酒場で両手を高々に上げて、客を盛り上がらせた。


 そして彼らは麻雀で儲けた金の半分を酒場にばら撒き、酒場から出て行った。舞い散る紙幣に群がる観客のその賑やかな光景の酒場に背を向けた彼らは満足そうに笑いながら、夜道を歩く。


「ああ〜楽しかった!」


 繁賦は両手を頭の後ろに組みながら、爽快な気分で笑うと、源一はポケットからタバコの箱を取り出し、その一本を取り出して口に咥えて火をつけると、繁賦にある誘いをする。


「次はもっと楽しいところに行くぞ」


「お? 次はどこに行くんだ?」


「決まってる。もっと気持ちいいところだ」


「気持ちいいところ?」


 すると繁賦はハッと察するとその表情はみるみると赤く染め上がる。


「バ、バカやめろ! 俺はそういうところに行くのはまだ早えんだ!」


「何が早いだ? 50年以上も童貞のお前がよ? 今度こそいい加減に卒業しな!」


 源一は繁賦に指差ししながら迫ると、彼らはモジモジとしながら、ジト目でそっぽ向く。


「そ、そういうのは、もっと素敵な人としたいんだよ……それに……」


「だあああああ! いい加減おめえもいい歳なんだから、大人になれ! 行くぞ!」


 遂に苛立ち始めた源一は、繁賦の手を強引に掴むと、


「〜〜〜〜〜〜!! 悪いが俺にはまだ無理なんだーーーーー!!」


 彼はその手を振り払って、顔を真っ赤に染めながら逃げていった。


「ちょ、待て連!」


 だが、繁賦の姿は暗い夜道へと消えていった。


「あ〜あ、相変わらずのウブだな〜」


 源一はその繁賦の乙女ぽい仕草に呆れてしまう。


「仕方ねえ。今日も一人で一発ヤッていこうっと!」


 源一はそういうと、麻雀で稼いだ金をしまっていたポケットに手を突っ込み、そのまま夜道を歩いて娼館へと向かった。


 終戦後、これがかつての八百万の神の一人で、子供の神様と呼ばれた者の成れの果てである。

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