第五話
「じゃあね、アロルド」
ソラはアロルドに手を振った。
隣には渋い顔をしたルイシュがいる。
「またなー。いってらっしゃいルラ兄」
「あぁ」
ルラはアロルドの頭を撫でる。
「結局いつから番を探すの?」
「荷物が片付いたらな」
「へぇ。もし見つけて、お金に困ったら私のところに血液を売りに来るといい。高く買うよ。眼球ならもっと出す」
結局ルイシュはソラの申し出を断った。当然といえば当然だろう。
だが旅には出るようで、麓に買い物に行くのでそこまでは同行することとなった。
長い下り坂を何を話すでもなく歩く。本来のルイシュの歩く速度は早いだろうに、ソラと歩調を合わせている。
「何か用?」
ソラがそういったが、ルイシュは振り向くこともなく、低い声だけが聞こえてきた。
「あんた、竜人の何を調べてるんだ?」
「番について」
「調べて、どうするんだ?」
ソラの歩調が僅かに乱れる。
「聞いてどうするの?」
「別に」
「正確には、恋愛感情とそれにおける変化が主たる研究かな。その中でも亜人の、竜人と淫魔中心に調べてる」
「……恋愛?」
「そう。淫魔以外には誰にも訪れる、非日常。それが何か」
ルイシュは煙に巻かれたような顔でソラを見る。
「旅に出るなら常備薬はどう? 痛み止め、軟膏、胃腸薬。あんまりないけど、自分用に取ってあるのがあるから必要なら融通しようか?」
ルイシュはそれには答えない。
「まぁ竜人には薬が効きづらいから、量の割に値段が高くなるけどね」
そう続けたものの、やはり答えはない。ソラは小さく息をついて、そのまま二人無言で里まで歩を進めた。